脊髄損傷の治療法
脊髄が損傷した場合、酷い状況であれば人工呼吸器を余儀なくされ、すべての介助を必要とします。しかし、損傷した部位や損傷具合などによっては、リハビリなどの治療を行えば一定レベルまで回復することは可能です。
治療方法

脊髄損傷の治療方法にはこれまでのリハビリ、最先端のリハビリ、そして、再生医療の3つに分けられます。それぞれの治療方法について解説します。
既存のリハビリテーション
脊髄損傷での後遺症として多いのは四肢の麻痺です。歩くことや身体を動かすことなどに影響を及ぼし、自由に行動ができないという点でとてもきつい後遺症と言えます。こうした後遺症への治療には「ADL訓練(日常生活動作訓練)」が行われます。
ADL訓練は、食事や排せつなど日常生活で行う動作に関する訓練を行い、日常生活で欠かせない動作を行えるように能力を高めていくことができます。ご飯を食べるにしても、口に運ぶまでもなかなか大変です。口に運ぶことから練習し、口に運びやすい食器などの活用、家具の調整、噛まなくてもいい食事の形態などを模索します。
排せつをする場合も、トイレに移動するのも一苦労で、そこから便座に座り直す、ズボンの上げ下ろし、用を足した後の処理など訓練でやるべきことはたくさんあります。こうした訓練を行う中で日常生活を自力で送れる部分を確保することが可能です。
また、関節可動域訓練、通称ROM訓練では自分の力で自由に身体を動かせない患者に対し、関節が稼働するよう、関節を動かします。他にも筋力訓練などを行っていきます。
最先端のリハビリテーション
ADL訓練のような既存のリハビリテーションも当然必要ですが、これとは別に存在するリハビリテーションもあります。これからご紹介するものはいずれも最先端のリハビリテーションであり、脊髄損傷で不自由な身体になっても、できる限り自由に日常生活を送れるテクノロジーと言えるでしょう。
ロボットスーツHAL
ロボットスーツHALは、人間が身体を動かす際に出る「生体電位信号」を活用することで利用できるものです。人間は身体を動かしたいと思ったら、それに関連する信号が脳内で発せられます。この信号によって脊髄を通じて末端に運ばれて、実際に動かすことが可能です。
脊髄損傷の状態ではこの信号がうまく機能しないために、歩きたいと思っても筋肉が言うことを聞きません。ロボットスーツHALを装着する際には、センサーを皮膚に貼り付け、このセンサーが「生体電位信号」を読み取って、他の情報を組み合わせる形で動かすことができます。
HALはその人が思ったことに合わせて動くため、強弱、メリハリをしっかりとつけてくれるので、慎重な動きをしたい場合には慎重な動きになるようアシストしてくれるのです。
ロボットスーツHALは保険適応がなされていますが、脊髄損傷の患者全員が対象とはならず、神経難病の8つの疾病が対象です。作業支援ロボットとしても使われているHALですが、最先端リハビリテーションの1つとして期待度は高いでしょう。
電動車椅子WHILL
WHILLは免許もヘルメットも必要なく歩行者の扱いで利用できる電動車椅子です。小回りがきくほか、最大18キロまで走行できるのが大きな特徴です。歩行者扱いなので、歩道を利用できるのも魅力的と言えます。
毎月1万5000円ほどでレンタルが利用できるほか、介護保険を利用できる方であれば3,000円程度で利用できます。しかも、利用する際には担当者が直接WHILLを届けてフィッティングを行うなど、導入に向けたアドバイスまでやってくれるので安心です。
WHILLを使うと歩行機能が衰えるということはなく、むしろWHILLを使うことで通常のリハビリが進み、改善が見られたという傾向が見られます。WHILLによって社会参加や社会復帰がしやすくなり、自信につながったことも影響しているといわれています。
再生医療
脊髄を損傷してしまうと基本的に自然治癒は不可能で、修復はできないのが一般的な常識です。しかし、再生医療を活用すれば将来的には自然治癒、修復の可能性が出てくると言われています。
ここからは脊髄損傷の治療に今後用いられる可能性があるものについて解説します。
iPS細胞
2021年に慶應義塾大学病院では、世界初のiPS細胞由来の細胞を脊髄損傷の患者に移植したことを公表しました。人間への移植には時間がかかり、実に10年もの歳月がかかりましたが、iPS細胞を安全に移植するノウハウを学び、移植が行われています。
元々幹細胞を移植すれば脊髄損傷は治せるという考えは20年以上前から存在し、あとはテクノロジーの進化や創意工夫を行うだけという状況でした。
iPS細胞を使った再生医療は現在も研究対象となっていますが、iPS細胞を使った再生医療とリハビリテーション治療の併用で効果を高めることができるとされており、今後の研究に注目が集まります。
自己骨髄間葉系幹細胞
2018年度に再生医療の製品として承認を得られたものに「自己骨髄間葉系幹細胞」があります。自己骨髄間葉系幹細胞は骨髄を採取して培養したもので、培養後は患者の静脈に投与することで対応できる仕組みです。この幹細胞は静脈を通じて損傷している部位にたどり着いて治療につなげられます。
過去の調査ではほとんどの脊髄損傷の患者に改善が見られ、安全性も確認されました。そして、自己骨髄間葉系幹細胞の製造販売の承認を受け、治療が始まっています。
後遺症の治療
脊髄を損傷すると、再生医療を活用しない限り、現状では回復は見込みにくい状況にあります。そのため、脊髄損傷による後遺症に関する治療を生涯にかけて行い続けることが重要です。
麻痺に関してはリハビリなどを通じて対策を行えますが、「痙縮」と呼ばれる、麻痺した筋肉がつっぱる減少が起こります。この場合には神経ブロック療法などを行いつつ、リハビリに励む必要があります。
また、脊髄損傷の後遺症で見られる自律神経への対応も必要です。特に「自律神経過反射」は尿路障害や腸管障害により、脳へ信号がいかず、自律神経にプレッシャーがかかり、血圧の上昇につながるといった危険な状態をもたらします。
自律神経過反射は原因を取り除くことで改善されるため、排せつを適切に行い続けることが大切です。
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