椎間板ヘルニアになると、腰や足に痛みやしびれが出て、日常生活に大きな支障が出てきます。手術が必要なケースもありますが、薬物療法で症状を和らげながら経過観察を行うことが一般的です。
この記事では、椎間板ヘルニアに効果的な薬の種類や選び方、副作用や注意点などをわかりやすく解説します。保存療法から手術療法まで、さまざまな治療法についても触れています。ご自身の症状に合った治療法を見つけるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
椎間板ヘルニアの治療薬の種類と選び方
椎間板ヘルニアの薬物療法は、痛みや炎症を抑え、日常生活を取り戻すための第一歩です。薬物療法は、保存療法と呼ばれる治療法の一環です。手術療法と比較して身体への負担が少ないメリットがあります。椎間板ヘルニアの治療によく使われる薬の種類と、それぞれの薬の特徴について、以下の3つを解説します。
- 痛み止め(NSAIDs、アセトアミノフェンなど)
- 神経痛を抑える薬(プレガバリンなど)
- 筋肉の緊張を和らげる薬(筋弛緩薬)
痛み止め(NSAIDs、アセトアミノフェンなど)
痛み止めには、主に「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」と「アセトアミノフェン」の2種類があります。効果や注意点については、以下の表のとおりです。
薬の種類 | 薬の名前 | 効果 | 注意点 |
NSAIDs | ロキソニン、ボルタレン | 炎症を抑え、痛みを軽減する | 胃腸障害の副作用がある可能性がある |
アセトアミノフェン | カロナール | 痛みを軽減する | 高用量を摂取すると、肝臓に負担がかかる可能性がある |
神経痛を抑える薬(プレガバリンなど)
椎間板ヘルニアになると、飛び出した椎間板の一部が神経を圧迫し、足にしびれや痛みが走る神経痛の症状が現れることがあります。神経痛には「プレガバリン(商品名:リリカ)」などの薬が用いられます。
プレガバリンは、神経の興奮を抑えることで、神経痛を和らげる効果が期待できます。痛みが強い場合や、NSAIDsでは効果が不十分な場合に用いられます。効果が現れるまでに1〜2週間かかる場合もあります。眠気やめまいなどの副作用が現れることもあるため、車の運転など、危険を伴う作業は避けましょう。
筋肉の緊張を和らげる薬(筋弛緩薬)
椎間板ヘルニアになると、周りの筋肉が緊張し、緊張によってさらに痛みが増強することがあります。筋肉の緊張には筋弛緩薬が用いられます。筋肉の緊張を和らげることで、痛みを軽減する効果が期待できます。
エペリゾン塩酸塩(商品名:ミオナール)などがあります。筋弛緩薬も、眠気や倦怠感などの副作用が現れる場合があるため、車の運転など、注意が必要な作業は避けましょう。
椎間板ヘルニアの薬物療法は、あくまで対症療法であり、ヘルニア自体を根本的に修復するものではないことを理解しておくことが重要です。多くの場合、時間の経過とともに自然に症状が改善することがありますが、薬物療法は時間経過での痛みや不快感を軽減する役割を担っています。
薬の効果を高めるためには、日常生活での注意点を守ることが重要です。正しい姿勢を保つことや重いものを持ち上げる際は膝を使う、長時間の座位を避け適度に身体を動かすといった工夫で、症状の悪化を防ぐことができます。
椎間板ヘルニアの薬の選び方
椎間板ヘルニアの治療薬の種類と選び方について、以下の内容を解説します。
- 痛みの程度に合わせた薬の選び方
- 症状に合わせた薬の選び方(神経痛、しびれ、麻痺など)
- 副作用のリスクを考慮した薬の選び方
- 薬の併用時の注意点
- 市販薬と処方薬の違い
痛みの程度に合わせた薬の選び方
痛みの感じ方は人それぞれであり、少し痛いと感じる人もいれば、耐えられないほど痛いと感じる人もいます。薬を選ぶ際には、まず患者さん自身の痛みの程度を正確に把握することが重要です。
痛みが軽い場合は、アセトアミノフェン(カロナールなど)やNSAIDs(ロキソニン、ボルタレンなど)といった比較的副作用の少ない薬から試していきます。アセトアミノフェンやNSAIDsは市販薬としても販売されていますが、自己判断で長期間服用したり、他の薬と併用したりするのは危険です。必ず医師や薬剤師に相談するようにしてください。
中等度の痛みで、アセトアミノフェンやNSAIDsの効果が不十分な場合は、オピオイド系鎮痛薬(トラマドール、オキシコドンなど)を併用することがあります。オピオイド系鎮痛薬は強い痛みを抑える効果が期待できます。依存性や眠気、便秘などの副作用が現れる可能性があるため、医師の指示に従って慎重に使用する必要があります。
痛みが強い場合は、神経痛を抑える効果のあるプレガバリン(リリカ)を処方することもあります。プレガバリンは効果が現れるまでに1〜2週間かかる場合があり、眠気やめまいなどの副作用が生じることもあります。
症状に合わせた薬の選び方(神経痛、しびれ、麻痺など)
椎間板ヘルニアでは、飛び出した椎間板が神経を圧迫することで、神経痛やしびれ、麻痺などの神経症状が現れることがあります。神経症状に対しては、プレガバリンが有効です。プレガバリンは、神経の興奮を抑えることで神経痛を和らげ、しびれや麻痺などの症状を改善します。
神経症状の程度は患者さんによって大きく異なり、軽いしびれを感じるだけの患者さんもいれば、足に力が入らず歩行困難になる患者さんもいます。症状が重いほど、日常生活への影響も大きいため、早期に適切な治療を開始することが大切です。
副作用のリスクを考慮した薬の選び方
薬には、効果だけでなく副作用のリスクも伴います。高齢の方や他の病気を持っている方、妊娠中の方などは、副作用が現れやすい傾向があります。
NSAIDsは、胃腸障害(胃痛、吐き気、下痢など)や腎機能障害の副作用が生じる可能性があるため、胃腸の弱い方や腎臓に持病のある方は注意が必要です。心臓病や高血圧のある方も、NSAIDsによって症状が悪化する可能性があるため、使用前に必ず医師に相談してください。
長期間の使用は避け、医師の指示に従って適切な期間だけ服用することが重要です。高齢の方は、NSAIDsによって消化管出血や腎機能障害などの重篤な副作用が生じるリスクが高まるため、より慎重な投与が必要となります。
アセトアミノフェンは、NSAIDsに比べて副作用が少ない薬ですが、高用量で服用すると肝臓に負担がかかる可能性があります。肝機能障害のある方や大量の飲酒習慣のある方は注意が必要です。薬を処方する際には、患者さんの年齢や持病、他の薬の服用状況などを考慮し、副作用のリスクを最小限に抑えています。副作用が心配な場合は、医師に相談するようにしてください。
薬の併用時の注意点
複数の薬を同時に服用する場合、薬同士が相互作用を起こし、効果が強まったり弱まったり、あるいは予期せぬ副作用が生じる可能性があります。NSAIDsとアセトアミノフェンを併用すると、胃腸障害のリスクが高まります。一部の薬は、特定の食品やサプリメントとの併用で効果が変化することがあります。
複数の薬を服用する必要がある場合は、必ず医師や薬剤師に相談し、適切な指導を受けるようにしてください。自己判断で薬を併用することは大変危険です。
市販薬と処方薬の違い
薬には、ドラッグストアで購入できる市販薬と、医師の処方箋が必要な処方薬があります。市販薬で症状が改善しない場合や悪化した場合は、自己判断せずに、医療機関を受診するようにしてください。
椎間板ヘルニアの治療薬の中には、市販薬として販売されているものもありますが、強い痛みには、病院で処方される薬のほうが効果が高い場合が多いです。市販薬の中には、椎間板ヘルニアの症状に適さないものもあります。医師は、患者さんの症状や体質に合わせて、適切な薬の種類や量を判断し、処方します。
椎間板ヘルニアの薬以外の治療法
椎間板ヘルニアの薬以外の治療法については、以下のとおりです。
- 理学療法
- 装具療法
- 手術療法
治療法を適切に組み合わせることで、より効果的に症状を改善し、日常生活の質を向上させることができます。
理学療法
理学療法は、身体の機能を改善するための治療法です。椎間板ヘルニアの場合は、腰や背中の筋肉を鍛えることで、椎間板への負担を軽減し、症状の改善を促します。理学療法では、ストレッチや筋力トレーニング、マッサージなど、さまざまな方法を組み合わせます。硬くなった筋肉をストレッチで柔らかくすることで、血行が促進され、痛みが和らぎます。
筋力トレーニングによって、体幹や背筋などの筋肉を強化することで、姿勢が安定し、椎間板への負担を軽減できます。理学療法士は、患者さんの状態に合わせて、最適なプログラムを作成します。日常生活での姿勢や動作の指導も行ってくれます。
こまめに休憩を取ったり、正しい姿勢を意識したり、重いものを持ち上げる際には膝を使うなど、日常生活での工夫も大切です。適切な運動療法を選択することで、機能回復を促進し、再発予防につながる可能性があります。エビデンスにもとづいたガイドラインでも、理学療法は推奨されています。
特に、自宅でできるストレッチを取り入れることで、通院が難しい方でも痛みの軽減が期待できます。以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状緩和に役立つストレッチを具体的に紹介しています。
>>椎間板ヘルニアの改善が期待できるストレッチ!自宅でできる痛み軽減法
装具療法
装具療法は、コルセットなどの装具を使って、腰や背骨を支え、安定させる治療法です。椎間板ヘルニアの場合、コルセットの装着で椎間板への負担を軽減し、痛みを和らげることができます。コルセットは、症状の程度や生活スタイルに合わせて、さまざまな種類があります。
コルセットには、腰椎を固定し安定させることで、炎症の悪化を防ぎ、痛みの軽減を図る効果があります。コルセットを装着することで、姿勢が矯正され、腰への負担を軽減する効果も期待できます。コルセットは、腹筋や背筋などの体幹の筋力低下につながる可能性があるため、医師の指示に従って使用することが重要です。
コルセットは、日常生活での活動中に装着することが一般的です。装着時間は、症状やコルセットの種類によって異なりますが、長時間装着し続けることは避け、適宜休憩を取るようにしましょう。コルセットの締め付けが強すぎると、血行が悪くなったり、皮膚にトラブルが生じたりする可能性があります。適切なサイズと締め付け具合で装着することが大切です。
なお、コルセットを選ぶ際には、自分の症状や体型、用途に合ったものを見極めることが重要です。以下の記事では、椎間板ヘルニアにおけるコルセットの効果や、選び方・使用時のポイントについて詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアにコルセットは効果的?選び方と使用法を解説
手術療法
保存療法で効果が得られない場合や、神経の麻痺が進行している場合、手術療法が検討されます。手術療法は、椎間板ヘルニアの根本的な原因を取り除くことができるため、症状の改善が期待できます。手術には、主に以下の2つの種類があります。
- 内視鏡を使った手術:皮膚を小さく切開して行う手術
- 従来の開腹手術:内視鏡手術より大きな切開を行う手術
内視鏡手術は、身体への負担が比較的少ない場合が多く、術後の回復が早い傾向があります。手術療法は、痛みやしびれの根本的な改善を期待できますが、身体への負担も大きいため、慎重に検討する必要があります。北米脊椎協会(NASS)のガイドラインでも、保存的治療で効果が得られない場合に手術を検討することが推奨されています。
手術療法を選択する場合は、入院期間や術後のリハビリテーション期間、合併症のリスクも考慮する必要があります。医師から十分な説明を受け、理解したうえで判断することが大切です。どの治療法が最適かは、患者さんの症状や生活スタイル、価値観によって異なります。医師とよく相談し、ご自身にとって最適な治療法を選択しましょう。
加えて、手術を検討する際に気になるのが費用や保険適用の可否です。以下の記事では、椎間板ヘルニア手術の費用相場や保険が適用される条件について、分かりやすく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの手術の費用相場と保険適用の条件を詳しく解説
まとめ
薬物療法は保存療法の重要な一部であり、痛み止めや神経痛を抑える薬、筋弛緩薬など、症状に合わせた薬を選択することが大切です。副作用のリスクや薬の併用時の注意点にも気を配り、医師や薬剤師に相談しながら、安全に薬を使用しましょう。
薬物療法以外にも、理学療法や装具療法、手術療法など、さまざまな治療法があります。それぞれの治療法の特徴を理解し、ご自身の症状やライフスタイルに合わせて、医師と相談しながら最適な治療法を選択することが重要です。
椎間板ヘルニアはつらい症状を引き起こしますが、適切な治療を行うことで、痛みやしびれを軽減し、日常生活の質を向上させることができます。焦らず、医師と協力しながら、治療に取り組んでいきましょう。
なお、治療を進めるうえで重要なのが、回復を促す生活習慣の見直しです。以下の記事では、椎間板ヘルニアを早く改善するための具体的な生活習慣や、自宅でできる実践的なポイントを紹介しています。
>>椎間板ヘルニアを早く治す方法!回復を促進する生活習慣
参考文献
D. Scott Kreiner, Steven W. Hwang, John E. Easa, Daniel K. Resnick, Jamie L. Baisden, Shay Bess, Charles H. Cho, Michael J. DePalma, Paul Dougherty, Robert Fernand, Gary Ghiselli, Amgad S. Hanna, Tim Lamer, Anthony J. Lisi, Daniel J. Mazanec, Richard J. Meagher, Robert C. Nucci, Rakesh D. Patel, Jonathan N. Sembrano, Anil K. Sharma, Jeffrey T. Summers, Christopher K. Taleghani, William L. Tontz Jr, John F. Toton; North American Spine Society. An evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of lumbar disc herniation with radiculopathy. The Spine Journal, 2014 Jan;14(1):180-191.
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