膝の痛みの原因が、実は膝ではなく腰の椎間板ヘルニアにあることは珍しくありません。椎間板の異常によって神経が圧迫されると、腰の痛みだけでなく、膝にもしびれや痛みが現れることがあります。
本記事では、椎間板ヘルニアと膝の症状との関連性や特徴、受診のタイミングについて解説します。また、膝の痛みに対するセルフケアの方法や、日常生活でできる対策もご紹介します。健康な状態と比べながら、ご自身の症状を見極め、適切な対応を見つける参考にしてください。
椎間板ヘルニアそのものの仕組みや原因について基礎から理解しておくことで、症状とのつながりがより明確になります。以下の記事では、椎間板ヘルニアの原因や代表的な症状、対策について、わかりやすく解説しています。
>>椎間板ヘルニアとは?原因や症状・対策を解説
目次
椎間板ヘルニアで膝が痛くなる原因3選
椎間板ヘルニアで膝が痛くなる原因として、以下の3つを解説します。
- 腰椎神経根の圧迫による放散痛
- 脊柱管狭窄症による神経圧迫
- 腰椎の不調による姿勢変化と膝への負担増加
健康な状態と比較し、ご自身の症状を把握しましょう。
腰椎神経根の圧迫による放散痛
椎間板ヘルニアでは、本来クッションの役割を持つ椎間板の一部が突出し、神経を圧迫することがあります。その結果、腰の神経が刺激され、膝にかけて痛みやしびれが放散することがあります。
放散痛の強さや広がり方には個人差があり、神経の圧迫によっては日常生活に影響を及ぼすこともあります。圧迫されている神経の場所によって、痛みの現れる部位も異なります。坐骨神経が圧迫されることで、お尻から太もも裏、ふくらはぎにかけて痛みが広がることがあります。
軽度であっても放置すれば悪化する可能性があるため、段階ごとの特徴と適切なケア方法を知っておくことが大切です。以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアのレベル別の特徴や対処法を紹介しています。
>>腰椎椎間板ヘルニア症状のレベル別特徴と対処法
脊柱管狭窄症による神経圧迫
脊柱管狭窄症は、背骨の脊柱管が狭くなる病気です。椎間板ヘルニアによって脊柱管が狭くなると、神経が圧迫されて腰痛をはじめ、膝の痛みやしびれを引き起こす場合もあります。
通常、脊柱管は十分なスペースを確保しており、神経は圧力を受けることなく適切に働いています。しかし、椎間板ヘルニアなどによって脊柱管が狭くなると、神経が圧迫されて、さまざまな不調が引き起こされる可能性があります。特に歩行時や立位のときに、こうした症状が悪化しやすい傾向があります。
腰椎の不調による姿勢変化と膝への負担増加
椎間板ヘルニアで腰に痛みが出ると、痛みをかばおうとするため、無意識のうちに姿勢が悪くなってしまう人がいます。姿勢が悪くなると、膝関節への負担が増加するため、膝の痛みを引き起こす可能性があります。
健康な状態では、体重が均等に分散され、膝への負担を最小限に抑えます。腰に痛みがあると、かばうために姿勢が歪み、体重のかかり方が偏りやすくなります。体重の偏りは、特定の部位に負担が集中し、膝の痛みを引き起こすリスクを高めます。
椎間板ヘルニアによる膝の痛みの特徴4選
膝の痛みは、膝だけでなく、腰の椎間板ヘルニアによる影響も示唆されます。椎間板ヘルニアが原因で起こる、膝の痛みの特徴を、4つ解説します。
- 膝の裏や外側の違和感
- 膝の曲げ伸ばしの制限
- 脚の筋力低下
- 歩行時の痛みやしびれ
膝の裏や外側の違和感
健康な状態では、膝の裏や外側に違和感を感じる人は少ないです。椎間板ヘルニアになると、膝の裏や外側に以下の症状を感じやすくなります。
- チクチクする痛み
- 鈍い痛み
- 焼ける痛み
- 何かが触れている違和感
- 皮膚の表面がピリピリする感覚
椎間板ヘルニアによって坐骨神経が圧迫されると、痛みやしびれ、違和感などが現れる人がいます。同じ姿勢を長時間続けていたり、急に腰を動かしたりしたときに症状が悪化する傾向があります。放置すると症状が悪化していく可能性があるため、注意が必要です。
膝の曲げ伸ばしの制限
健康な状態では、膝はスムーズに曲げ伸ばせますが、膝に痛みが出ると、曲げ伸ばしが制限される人がいます。正座や階段の上り下り、立ち上がりなどの動作が困難になる可能性があります。
痛みによって膝関節周辺の筋肉の緊張や炎症が起こり、動きが悪くなります。症状によっては、膝を完全に伸ばすことも難しくなり、歩行に支障が出る場合もあります。日常生活に大きな支障が出ると、QOL(生活の質)の低下につながる可能性があります。
脚の筋力低下
通常は脚の筋力が保たれていますが、神経が圧迫されると、太もも裏やふくらはぎの筋力が徐々に低下することがあります。初期には自覚しにくいこともありますが、やがて歩きづらくなったり、つまずきやすくなったりするなど、日常生活に影響を及ぼすようになります。筋力の低下は転倒のリスクにもつながるため、早めの対策が重要です。
歩行時の痛みやしびれ
椎間板ヘルニアが原因で膝にしびれや痛みがある場合、歩くことで状態が悪化するおそれがあります。特に、長時間の歩行や坂道の昇降といった動作により、痛みやしびれが強まる傾向が見られます。
血行が悪化すると、痛みやしびれの増悪が起こる場合があります。症状が進行すると、少し歩いただけで痛みやしびれが強くなり、日常生活が制限される可能性があります。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状を悪化させないために、日常生活で注意すべき動作や習慣について詳しく解説しています。知らずにやってしまいがちなNG行動をチェックして、悪化を防ぎましょう。
>>椎間板ヘルニアでやってはいけないこと!悪化を防ぐ注意点
病院に行くべき症状と受診の目安
膝の痛みは放置すると悪化し、日常生活に支障をきたす場合もあるため、適切なタイミングで医療機関への受診が大切です。整形外科を受診すべき症状を3つ解説します。
- 膝に痛みとしびれが同時に出ている場合
- 歩行に支障があり階段がつらいと感じる場合
- 排尿や排便に異常が出てきた場合
膝に痛みとしびれが同時に出ている場合
膝に痛みとしびれが同時に出ている場合は、注意が必要です。神経が圧迫されると、足先まで広がる坐骨神経痛が現れる人がいます。腰の神経は、足の先までつながっているため、腰の神経が圧迫されることで、影響が膝や足先にまで及び、痛みやしびれが起こりやすくなります。
しびれが軽度の場合、皮膚の表面がピリピリする感覚ですが、重度の場合、感覚が麻痺し、触っても感じなくなる人もいます。症状が現れた場合は、整形外科を受診し、適切な検査と治療を受けましょう。
歩行に支障があり、階段がつらいと感じる場合
膝の痛みで歩くことが困難になったり、階段の上り下りがつらくなったりするなど症状を感じている場合は、早めに病院を受診しましょう。特に階段の昇り降りは膝に大きな負担をかけるため、症状が強まる傾向があります。初期症状は、短い距離の歩行でも痛みや違和感を覚える程度です。
症状が進行すると、次第に歩ける距離が短くなったり、最終的には歩くことさえ困難になったりする可能性があります。日常生活に支障が出てしまう前に、整形外科を受診して医師への相談を推奨します。
排尿や排便に異常が出てきた場合
膝の痛みだけでなく、排尿や排便に異常を感じた場合は、すぐに病院を受診する必要があります。深刻な状態のサインである馬尾神経症候群の可能性があります。馬尾神経症候群とは、腰椎にある馬尾神経が圧迫されることで、膀胱や直腸の機能に障害が生じる病気です。以下の症状が出現する可能性があります。
- 尿が出にくい
- 尿が漏れる
- 便が出にくい
- 便が漏れる
排尿・排便障害に加え、下半身のしびれや麻痺などの影響が生じる人もいます。馬尾神経症候群は、緊急性の高い病気であるため、すぐに救急車を呼ぶか、近くの病院に連絡しましょう。放置すると神経が不可逆的に損傷し、後遺症が残る可能性もあるため、早期の診断と治療が重要です。
膝の痛みに対するセルフケアと日常生活での対処法
椎間板ヘルニアが原因で膝に痛みやしびれが出ている場合は、適切なセルフケアと日常生活の対処法を知ると、症状の緩和や進行の抑制につながります。膝の痛みに対する効果的なセルフケアの方法や、日常生活で意識すべき点を解説します。
- 温罨法やストレッチを実施する
- 姿勢や体の使い方を見直す
- 体重管理をする
- 整形外科や理学療法士などの専門家へ相談する
温罨法やストレッチを実施する
温罨法は、温かいタオルやカイロなどを患部に当てることで、血行促進や筋肉の緊張緩和に役立つ可能性があります。実施方法は、温めたタオルや市販の使い捨てカイロなどを膝に当て、10~20分温めます。温度は、熱すぎず、心地よく感じる程度に調整しましょう。
入浴は、温罨法と同様の効果が期待できます。38~40℃のお湯に15〜20分浸かります。全身の血行が促進され、痛みの軽減が期待できます。炎症が強い場合は、温めると症状が悪化する場合もあるため注意が必要です。痛みが強くなる場合は、冷罨法に切り替えるなど、状態に合わせて方法を選択してください。
ストレッチは、硬くなった筋肉を伸ばし柔軟性を高めることで、関節の動きをスムーズにする効果が期待できます。膝の痛みに効果的なストレッチは、太ももの前側を伸ばす大腿四頭筋のストレッチや、太ももの裏側を伸ばすハムストリングスのストレッチ、ふくらはぎを伸ばす下腿三頭筋のストレッチなどがあります。
ストレッチを行う際は、痛みを感じない範囲でゆっくりと行いましょう。反動をつけたり、無理に伸ばしたりすると、筋肉や関節を痛める可能性があります。1回のストレッチにつき、20~30秒保持し、1日数回繰り返すと、効果を実感しやすくなります。
温鍼灸を取り入れて疼痛の改善が報告された研究もありますが、導入したい場合は、医師に相談することをおすすめします。
姿勢や体の使い方を見直す
姿勢が悪いと特定の関節に負担がかかりやすく、膝の痛みが悪化する場合があります。猫背や反り腰などの姿勢は、骨盤の傾きや脊柱の湾曲に影響を与え、膝への負担を増大させる可能性があり注意が必要です。日常生活で正しい姿勢を意識し、痛みの悪化予防を目指しましょう。
重い物を持ち上げたり、立ち上がったりする動作では、膝に急な負荷がかかることがあります。中腰の姿勢は特に、腰や膝への負担が増しやすいです。中腰の作業が避けられない場合は、台を使ったり、適度に休憩を取るなどして負担を軽くする工夫が大切です。
以下の記事では、椎間板ヘルニアによる痛みを和らげるための具体的な対策や、即効性が期待できる方法を詳しく紹介しています。症状が続いて不安な方は、ぜひ参考にしてみてください。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法と即効性が期待できる対策
体重管理をする
体重が増加すると、膝にかかる負担も増え、痛みが悪化しやすくなります。適正体重の維持は、膝への負担を軽減し、痛みの予防・改善を目指せます。栄養バランスの良い食事を心がけ、適度な運動を習慣づけることで、体重管理を行いましょう。
適切な栄養摂取も大切です。バランスの良い食事を心がけ、全身の健康状態を整えると、膝の状態の改善に期待できます。具体的な栄養については、医師や栄養士に相談しましょう。
整形外科や理学療法士などの専門家へ相談する
セルフケアで痛みが改善せず、症状が悪化している場合は、整形外科を受診しましょう。医師の診察を受け、適切な診断と治療を受けることが大切です。整形外科では、レントゲン検査やMRI検査などを行い、痛みの原因を特定します。必要に応じて、以下の内容を提案する場合があります。
- 薬物療法
- 装具療法
- リハビリテーション療法
- 注射療法
- 手術療法
症状が長引いたり、通常の治療で効果が見られなかったりする際は、他の治療選択肢を医師に相談しましょう。
まとめ
椎間板ヘルニアは、腰痛だけでなく、神経の圧迫から膝の痛みやしびれも引き起こす場合があります。以下の症状に該当する場合は、椎間板ヘルニアが疑われます。
- 膝の裏や外側の違和感
- 膝の曲げ伸ばしの制限
- 脚の筋力低下
- 歩行時の痛みやしびれ
症状を感じたら自己判断せず、整形外科を受診しましょう。痛みとしびれが同時にある場合や歩行に支障がある、排尿・排便に異常があるなどの症状に該当する人は、進行している可能性が高く、早めの受診が必要です。
症状緩和に役立つ日常生活のセルフケアは、以下があります。
- 温罨法
- ストレッチ
- 正しい姿勢や体の使い方
- 体重管理
痛みを我慢せず専門家のアドバイスを参考に、症状の改善を目指し適切な対応を行うことが大切です。
日常生活での姿勢や動き方も、椎間板ヘルニアの症状に大きく影響します。誤った動作を繰り返すことで痛みが悪化することもあるため、体の使い方には注意しましょう。以下の記事では、椎間板ヘルニアの方が注意すべき姿勢や、日常生活における体の使い方について解説しています。
>>椎間板ヘルニアで注意したい姿勢と日常生活での体の使い方を解説
参考文献
Xinhua Li, Yingchao Han, Jian Cui, Ping Yuan, Zhi Di, Lijun Li. Efficacy of Warm Needle Moxibustion on Lumbar Disc Herniation: A Meta-Analysis. J Evid Based Complementary Altern Med, 2016, 21, 4, p.311-319
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