腰や首の痛み、脚のしびれに悩まされていませんか?腰や首の痛みなどの症状は、椎間板変性症のサインの可能性があります。椎間板変性症は40代以降に多くみられる疾患で、加齢とともに椎間板の水分が失われ、クッション機能が低下することが主な原因です。
この記事では、椎間板変性症の原因や症状、治療法を解説します。椎間板変性症は、放置すると日常生活に大きな影響を及ぼす可能性がある疾患です。早期発見・早期治療を行い、ご自身の健康を守るためにも、ぜひ最後までお読みください。
以下の記事では、椎間板が神経を圧迫することで生じる「椎間板ヘルニア」について詳しく解説しています。症状や原因、対策まで知りたい方は参考にしてください。
>>椎間板ヘルニアとは?椎間板の神経を圧迫する原因や症状・対策を解説
目次
椎間板変性症とは椎間板が硬くなり変形する疾患
椎間板変性症は、背骨の骨と骨の間にあるクッション材である椎間板が、水分を失い、弾力性や高さが失われて変形する病気です。変形した椎間板が神経を圧迫したり炎症を起こしたりすることで、腰や首の痛み、脚のしびれなどの症状を引き起こします。
健康な椎間板は、中心部にゼリー状の髄核(ずいかく)、髄核の周囲を線維輪という組織が包み込む構造をしています。髄核は水分が多くクッションの役割をしている組織で、線維輪は背骨にかかる負担を分散する組織です。椎間板変性症をそのままにしておくと、進行するにつれて脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアを発症するリスクが高まります。
そうした疾患に進行すると、神経を圧迫することで慢性的な痛みやしびれ、歩行障害など、日常生活に支障をきたすような深刻な症状を引き起こす可能性もあります。早期に対処することが、重症化を防ぐためには重要です。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの痛みを和らげるために役立つ正しい姿勢のポイントと、効果が期待できるストレッチ方法を詳しく解説しています。自宅で簡単にできる実践的な内容なので、ぜひチェックしてみてください。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる姿勢と効果が期待できるストレッチ法を紹介
椎間板変性症の3つの原因
椎間板変性症の3つの原因は以下のとおりです。
- 加齢
- 日常的な前屈姿勢
- 運動不足
加齢
加齢は、椎間板変性症の大きな原因の一つです。生まれたばかりの赤ちゃんの椎間板は、約80%が水分で構成されており、ぷるぷるとしたゼリーのような弾力性に富んでいます。20歳を過ぎると徐々に椎間板の水分が失われ始め、高齢になるにつれて、水分量はさらに減少していきます。
40代以降で椎間板変性症の患者さんが増えるのは、加齢による椎間板の老化が原因です。女性は閉経後に女性ホルモンのエストロゲンが減少するため、骨密度が低下しやすくなり、椎間板変性症のリスクがより高まると言われています。
日常的な前屈姿勢
デスクワークやスマートフォンの操作、読書、家事など、日常生活で前かがみの姿勢を長時間続けることも、椎間板変性症の原因につながります。人間の背骨は、S字カーブを描くことで、重力や衝撃を効率的に分散するようにできています。前かがみの姿勢になると、S字カーブが崩れ、椎間板の前方に大きな圧力が集中し、線維輪に亀裂が生じやすくなります。
前かがみの姿勢は、腹筋や背筋などの体幹の筋肉を弱める原因です。体幹の筋肉は、背骨を支え、姿勢を維持するうえで重要な役割を果たします。体幹の筋肉が弱まると、椎間板への負担がさらに増え、変性を加速させる可能性があります。
運動不足
運動不足も、椎間板変性症を進行させる原因の一つです。適度な運動は、椎間板の健康維持に欠かせません。運動によって、血液の循環が促進され、椎間板に必要な栄養や酸素が供給されやすくなります。運動によって筋肉が鍛えられると、背骨を支える力が強くなり、椎間板にかかる負担を軽減することが期待できます。
ウォーキングや水中運動、ヨガ、ピラティスなどの体幹を意識した運動は、椎間板への負担を和らげ、腰回りの筋肉を強化するうえで効果的とされています。これらの運動を継続することで、背骨を支える筋肉が安定し、腰への過剰なストレスを抑えることができます。反対に、運動不足が続くと椎間板への血流や栄養の供給が低下し、周囲の筋力も落ちてしまうため、椎間板の変性が進行しやすくなり、痛みなどの症状が悪化するリスクが高まります。
椎間板の健康を保つためには、日頃の姿勢と適度な運動が欠かせません。年齢とともに椎間板は変化していきますが、正しい姿勢を心がけ、筋力を維持することで、変性の進行を抑え、腰痛などの症状を軽減することが期待できます。
椎間板変性症の主な症状
椎間板変性症の主な症状は以下のとおりです。
- 腰や首の痛み
- 脚のしびれ
- 筋力低下
腰や首の痛み
腰や首の痛みは、椎間板変性症で最も多く見られる症状です。初期の痛みは、鈍く重い痛みが慢性的に続くことが多いです。安静にしていると軽減する場合もあります。変性が進行すると、鋭い痛みが走る、前かがみや後ろ反りで痛む、寝返りを打つだけで激痛が走るなど、痛みの程度や性質も変化します。
「重いものを持ち上げたら激痛が走った」「朝起きたときに腰が痛くて動けない」「くしゃみで腰に電気が走る」など、さまざまな訴えがあります。痛みの原因の種類も、炎症による痛みや神経が圧迫されることによる痛みなど多岐にわたります。複数の要因が複雑に絡み合っている場合も多いです。
脚のしびれ
椎間板の変形によって神経が圧迫されると、脚のしびれも生じる場合があります。しびれの他にも、脚の痛みや感覚障害を覚える場合もあります。初期には、足先がジンジンする、ピリピリするといった軽度のしびれを感じることが多いです。
症状が進行すると、足の裏の感覚が鈍くなる、熱い、冷たいといった温度感覚がわかりにくくなるなど、感覚障害が現れることもあります。重症化すると、足に力が入らなくなり、歩行が困難になる場合もあるため注意が必要です。しびれは、片側の脚だけに現れる場合もあれば、両方の脚に現れる場合もあります。
お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、足先まで、症状が広範囲に及ぶこともあります。
筋力低下
筋力低下も椎間板変性症の症状の一つです。神経が圧迫されると、神経を介して脳から筋肉に送られる電気信号がうまく伝わらなくなることが原因です。初期症状として、以下の2つが生じるケースが多いです。
- 長時間歩くと足が疲れやすくなる
- 階段の上り下りがつらくなる
症状が進行すると、つま先立ちやかかと立ちが困難になるなど、特定の動作がしにくくなることがあります。重症化してしまうと、歩行困難になる、立ち上がることができなくなるなど、日常生活に大きな支障をきたすため注意が必要です。
筋力低下は、しびれと同様に、片側の脚だけに現れる場合もあれば、両方の脚に現れる場合もあります。太ももの筋肉が弱くなる、ふくらはぎの筋肉が弱くなるなど、特定の筋肉に症状が現れることもあります。
椎間板変性症の4つの治療法
椎間板変性症の4つの治療法は以下のとおりです。
- 保存療法
- 注射療法
- 再生医療
- 手術療法
保存療法
保存療法は、椎間板変性症の初期段階や、症状が比較的軽い場合にまず選択されることが多いです。保存療法の具体的な手法には、以下のものが挙げられます。
- 薬物療法
- 理学療法
- 装具療法
薬物療法は、痛みや炎症を抑える消炎鎮痛剤、神経の興奮を抑える神経障害性疼痛治療薬などを用いて、症状の改善を目指す方法です。服用する薬の種類や量は、患者さんの症状や体質に合わせて調整します。
理学療法では、専門の理学療法士による指導のもと、筋力トレーニングやストレッチ、温熱療法などを行います。腰や背中の筋肉を強化し、柔軟性を高めることで、椎間板への負担を軽減することが目的です。患者さん一人ひとりの体の状態に合わせた適切な運動プログラムを作成し、日常生活動作の改善を目指します。
装具療法は、コルセットなどの装具を着用することで、腰椎を安定させ、負担の軽減を目指す方法です。コルセットは、腰の動きを制限することで痛みを軽減する効果がありますが、長期間の着用はおすすめしていません。筋力低下につながる可能性もあるため、着用期間や使用方法については医師の指示に従いましょう。
治療の効果を感じられない場合や症状の改善が見られない場合は、他の治療法を検討してください。
注射療法
注射療法は、薬剤を患部に直接注射することで、痛みや炎症をピンポイントで抑える治療法です。保存療法で十分な効果が得られない場合や、痛みが強い場合に検討されます。注射療法には、神経ブロック注射や椎間板内注射、ハイドロゲル注射など、いくつかの種類があります。
神経ブロック注射は、痛みやしびれを引き起こしている神経周辺に局所麻酔薬やステロイド薬を注射する方法です。神経の興奮を抑え、痛みを緩和する効果が期待できます。効果は一時的ですが、痛みが強い時期を乗り越えるのに使われることが多いです。
椎間板内注射では、椎間板内に直接、消炎鎮痛剤などを注射します。痛みの原因物質である炎症性サイトカインの産生を抑えることで、痛みを軽減する効果が期待できます。
近年、自己修復能力を持つハイドロゲルを注射することで、変性した椎間板のクッション機能を補完し、痛みを軽減する治療法が研究されています。椎間板への血流が少ないという課題に対し、直接薬剤を送達できる局所注射療法の利点を活かした、新しい治療アプローチです。
注射療法は、比較的短時間で効果が現れる場合が多いですが、効果の持続期間には個人差もありますので、医師に相談したうえで治療を受けましょう。
再生医療
再生医療は、患者さん自身の細胞や組織、あるいは人工的に作られた物質を利用して、損傷した組織の修復を促す治療法です。PRP療法、幹細胞治療などが研究されています。
PRP療法(多血小板血漿療法)は、患者さん自身の血液から採取した多血小板血漿(PRP)を患部に注射する治療法です。PRPには、組織の成長や修復を促す成長因子が豊富に含まれており、損傷した椎間板の修復促進効果が期待できます。
幹細胞治療は、幹細胞を患部に注入することで、組織の再生を促す治療法です。幹細胞は、さまざまな種類の細胞に分化できる能力を持つ細胞で、椎間板の再生に役立つ可能性があります。再生医療は、一部の医療機関において自由診療として提供されていますが、効果や安全性については未確立の部分もあります。
手術療法
手術療法は、保存療法や注射療法などの治療で効果が得られない場合や、神経症状が進行している場合に検討されます。具体的な手法は、椎間板切除術や人工椎間板置換術、椎体間固定術などです。
椎間板切除術は、変性した椎間板の一部または全部を切除する手術です。神経圧迫の原因になっている椎間板を取り除くことで、痛みやしびれなどの症状を改善します。人工椎間板置換術は、変性した椎間板を人工椎間板に置き換える手術です。椎間板のクッション機能を回復させることで、痛みを軽減し、運動機能を改善します。
椎体間固定術は、不安定になった椎体同士を固定する手術です。脊椎の安定性を高めることで、痛みを軽減し、神経症状の悪化を防ぎます。手術療法は、他の治療法と比較して体に負担が大きい治療法です。手術のリスクや合併症、術後のリハビリテーションについても十分に理解したうえで、医師とよく相談することが大切です。
自宅でできる椎間板変性症のセルフケア
自宅でできる椎間板変性症のセルフケアは以下のとおりです。
- 姿勢に気をつける
- 体重を管理する
- 禁煙する
姿勢に気をつける
椎間板への負担を軽減するためには、正しい姿勢を維持することが重要です。長時間同じ姿勢を続けることは、椎間板に過剰な負担をかけ、変性を加速させる可能性があります。立っているときは、背筋を伸ばし、お腹を軽く引き締めるように意識しましょう。
顎を引いて、耳・肩・腰・膝・くるぶしが一直線になるように立つのが理想的です。座っているときは、深く腰掛け、背もたれに寄りかかり、骨盤を起こすように意識しましょう。猫背にならないように注意し、パソコン作業をする際は、モニターを目線の高さに合わせてください。
30分に1回は姿勢を変える、軽いストレッチをする、立ち上がって歩くなど、こまめに体を動かす習慣を身につけましょう。就寝時は、硬めのマットレスを使用し、横向きで膝を軽く曲げた姿勢をとりましょう。自分に合った寝具を選ぶことも大切です。高すぎる枕は頸椎に負担をかけるため、避けるべきです。
体重を管理する
体重が増加すると、椎間板にかかる負担も増大し、変性を加速させるリスクが高まります。適正体重の維持は、椎間板変性症の予防と症状緩和のために重要です。バランスの良い食事を心がけ、食べすぎに注意しましょう。1日3食規則正しく食べ、栄養バランスを整えることは、健康な椎間板を維持するうえで大切です。
適度な運動も、体重管理に効果が期待できます。ウォーキングや水中運動(水泳、水中ウォーキングなど)、無理なく続けられる運動を選び、習慣づけましょう。毎日30分のウォーキングを目標にする、週に2回は水泳に通うなど、具体的な目標を設定することで、継続しやすくなります。BMI(体格指数)は25未満を目標に、体重管理を行いましょう。BMIは、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算できます。
禁煙する
喫煙は、椎間板の老化を促進させるため、禁煙が重要です。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、椎間板への血流を阻害します。結果、椎間板に必要な栄養や酸素が十分に届かなくなり、変性を加速させてしまいます。喫煙は椎間板変性症のリスクを高めるだけでなく、さまざまな疾患のリスクを高めることが知られています。
禁煙は、椎間板変性症の予防だけでなく、全身の健康にも良い影響を与えます。禁煙補助薬を使用したり、禁煙外来を受診したりするなど、さまざまな方法があるため、医師や専門機関に相談しましょう。
まとめ
椎間板変性症は、加齢とともに椎間板の水分が失われ、弾力性が低下することで起こる病気です。椎間板変性症の原因は加齢だけでなく、日常的な前屈姿勢や運動不足も大きく影響します。症状は腰や首の痛み、脚のしびれ、筋力低下などさまざまで、進行すると日常生活に支障をきたすこともあります。
治療法は、保存療法や注射療法、再生医療、手術療法です。症状の程度や患者さんの状態に合わせて選択されます。どの治療法にもメリット・デメリットがあり、医師とよく相談することが大切です。日々の生活習慣を改善することも、椎間板変性症の予防と症状緩和につながります。正しい姿勢・適正体重の維持や禁煙など、今日からできるセルフケアを積極的に取り入れ、快適な生活を目指しましょう。
椎間板変性症は、同じく腰の不調に関連する「椎間板ヘルニア」と混同されることもありますが、両者には明確な違いがあります。以下の記事では、腰椎椎間板変性症の詳しい原因や代表的な症状、椎間板ヘルニアとの違い、対処法のポイントなどについてわかりやすく解説しています。
>>腰椎椎間板変性症の原因と症状|ヘルニアとの違いや対処のポイント
参考文献
Gu Z, He Y, Xiang H, Qin Q, Cao X, Jiang K, Zhang H, Li Y. Self-healing injectable multifunctional hydrogels for intervertebral disc disease. Mater Today Bio, 2025, 32, p.101655.
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