脊髄損傷の原因や治療法を解説|レベル別の症状や回復の見込み

脊髄損傷の原因や治療法を解説|レベル別の症状や回復の見込み
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脊髄損傷は、交通事故や転倒などで人生を大きく変えてしまう出来事の一つです。脳と体をつなぐ情報伝達の要である脊髄が損傷すると、運動機能や感覚に重大な影響を及ぼします。自分自身や周りの人を守るためにも、脊髄損傷の基礎知識を身につけ、迅速な対応と適切な治療につなげることの重要性の理解が必要です。

この記事では、脊髄損傷の原因やレベル別の症状、治療法、予後を解説します。脊髄損傷は、患者さん一人ひとりの状況が大きく異なるため、個別の症状やニーズに合わせた適切な対応が不可欠です。脊髄損傷に対する理解を深め、適切な治療と支援につながる一助となれば幸いです。

「中心性脊髄損傷」は高齢者の転倒などをきっかけに発症しやすく、手の動きに強く影響を及ぼすことがあります。以下の記事では、中心性脊髄損傷の原因や回復のプロセス、リハビリ方法や自宅でのケアについて詳しく解説しています。症状の理解と適切な対応の参考にしてください。
>>中心性脊髄損傷のメカニズムや回復過程|リハビリの方法やセルフケア

脊髄損傷を理解するための基礎知識

脊髄損傷を理解するための基礎知識を、以下の項目に沿って解説します。

  • 脊髄損傷とは神経の伝達が遮断される状態
  • 完全損傷と不完全損傷の違い

脊髄損傷とは神経の伝達が遮断される状態

私たちの背骨の中を通る脊髄は、脳と体の各部位をつなぐ神経の束です。脊髄は、運動の指令や感覚情報の伝達といった重要な役割を担っています。脊髄損傷とは、外傷や病気によって脊髄が傷つき、神経の伝達が遮断される状態です。

私たちが手を動かすとき、脳から「手を動かせ」という指令が脊髄を通って手の筋肉に伝えられます。熱い物に触れたとき、熱さの情報は脊髄を通って脳に伝わり「熱い!」と感じることができます。

脊髄が損傷すると、情報伝達経路が遮断されてしまいます。結果、損傷を受けた部位よりも下の部分で、麻痺や感覚障害といったさまざまな症状が現れます。重症の場合、車椅子での生活が必要になったり、呼吸や排泄に介助が必要になったりすることもあるため、適切な対処が不可欠です。

完全損傷と不完全損傷の違い

脊髄損傷は「完全損傷」「不完全損傷」の2種類に大きく分けられます。2つの違いは、損傷を受けた部分の神経の働きが完全に失われているかどうかです。完全損傷は、脊髄の神経線維が完全に断裂し、損傷部位より下の感覚や運動機能が完全に失われた状態です。脳からの指令が全く伝わらなくなり、感覚情報も脳に届かなくなります。

不完全損傷は、脊髄の神経線維の一部が損傷を受けたものの、機能が残っている状態です。麻痺の程度は損傷の程度によって異なり、わずかに感覚が残っていたり、少しだけ手足を動かすことができたりする場合もあります。

完全損傷と不完全損傷の判断は、MRI検査やCT検査といった画像診断、神経学的検査によって行われます。神経学的検査は、医師が患者さんの反射や筋力、感覚などをチェックし、損傷の程度を評価する検査です。

脊髄損傷の原因4選

脊髄損傷の4つの原因は以下のとおりです。

  • 交通事故
  • 転倒や転落
  • スポーツ外傷
  • その他の原因

交通事故

交通事故は、脊髄損傷の最も一般的な原因です。自動車やバイクの衝突事故はもちろん、自転車の転倒や歩行中の事故など、あらゆる交通場面で脊髄損傷のリスクが存在します。特に、シートベルトの非着用やヘルメットの未着用は、事故の衝撃を脊髄に直接伝えやすく、重症化のリスクを高める大きな要因です。

日頃から交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。加えて、歩行者や自転車利用者も周囲の状況に気を配り、危険を予測する習慣を身につけることが重要です。

転倒や転落

交通事故に次いで多い原因が、転倒・転落です。階段からの転落や、浴室での滑りなど、日常生活の何気ない場面に危険は潜んでいます。特に高齢者は、骨粗鬆症やバランス機能の低下により転倒しやすく、脊髄損傷のリスクが高くなります。

若い世代でも、高所作業中の転落や、スポーツ中の転倒などで脊髄損傷を負うケースがあるため注意が必要です。転倒・転落による脊髄損傷は、年齢を問わず誰にでも起こりうることを認識し、予防策を講じる必要があります。

自宅の階段に手すりを設置したり、浴室に滑り止めマットを敷いたりするなど、簡単な対策でリスクを軽減できます。高所作業時は安全帯を必ず着用し、スポーツ時は適切な防具を身につけましょう。

スポーツ外傷

スポーツ外傷も脊髄損傷の重要な原因の一つです。ラグビーのようなコンタクトスポーツだけでなく、スキーやスノーボードなど、さまざまなスポーツで脊髄損傷のリスクが伴います。

特に、激しい接触や高所からの落下を伴うスポーツでは、適切な指導や安全対策が不可欠です。スポーツを行う際は、安全への意識を高く持ち、ルールを守り、無理なプレーは避けることが大切です。スポーツの指導者は、安全な練習環境を整備し、選手たちに適切な指導を行う責任があります。

その他の原因

上記以外にも、脊髄損傷を引き起こす原因はさまざまです重い物を持ち上げた際に脊髄に負担がかかり損傷する場合もあります。まれですが、腫瘍や感染症、血行障害などが原因で脊髄が損傷するケースもあります。原因が何であれ、脊髄損傷は人生に大きな影響を及ぼす深刻な状態です。

脊髄損傷は非外傷性(腫瘍や血行障害など)の場合もあります。日頃から健康に気を配り、定期的な健康診断を受けることも、脊髄損傷のリスクを減らすうえで重要です。

脊髄損傷のレベル別症状

脊髄損傷のレベル別の症状を、以下に沿って解説します。

  • 頸髄損傷(C1~C8)
  • 胸髄損傷(T1~T12)
  • 腰髄損傷(L1~L5)
  • 仙髄損傷(S1~S5)

頸髄損傷(C1~C8)

頸髄は、首の部分にある脊髄で、C1~C8までの8つの神経根から構成されています。頚髄が損傷すると、頭部や頸部の運動や感覚、呼吸機能、腕や手の運動、場合によっては体幹や下肢の運動や感覚にも影響が出ることがあります。呼吸や心臓の機能を司る重要な神経も存在するため、頸髄損傷は命に関わる重篤な状態となる可能性が高いです。

C1~C4レベルの損傷は、最も重篤なケースです。呼吸に必要な筋肉を制御する神経が損傷されるため、自発呼吸が困難になり、人工呼吸器が必要となる場合もあります。首から下のほぼすべての運動機能と感覚が失われる四肢麻痺の状態になることが多く、日常生活における多くの動作で介助が必要です。

C5レベルでは肩の動きに影響が出ることが多いです。肩を動かすこと自体はできますが、肘や手首、指の動きは困難になります。C6レベルでは肘の曲げ伸ばしに影響が出やすく、肘を曲げることはできますが、伸ばすことや手首、指を動かすことは困難です。

C7レベルでは、肘を伸ばすことや手首を曲げ伸ばすことはできますが、指の細かい動きは困難です。C8レベルでは、手首や指の動きはある程度可能ですが、細かい動作や力の入れ具合が難しくなります。C5~C8レベルの損傷は、日常生活への影響も大きく、車いすが必要になるケースも多いです。

胸髄損傷(T1~T12)

胸髄は、胸の部分にある脊髄であり、T1~T12までの12個の神経根から成り立っています。胸髄が損傷を受けると、損傷を受けた部位より下の体幹や下肢の運動機能や感覚に影響が出ます。具体的には、胸や腹部の筋肉、そして脚の運動や感覚が損なわれる可能性があります。排尿や排便機能にも影響が出ることがあります。

T1~T6レベルの損傷の場合、体幹のバランスが取りにくくなり、座位保持が難しくなる場合があります。咳や痰を出す力が弱くなるため、肺炎などの呼吸器合併症のリスクが高まるため注意が必要です。日常生活では、車椅子での移動や移乗動作に介助が必要となることがあります。

T7~T12レベルの損傷は、腹筋が弱くなるため、体幹の安定性が低下します。日常生活では、長時間の座位保持やバランスを必要とする動作が困難になることが多いです。

腰髄損傷(L1~L5)

腰髄は腰の部分にある脊髄であり、L1~L5までの5つの神経根で構成されています。腰髄損傷では、下肢の運動や感覚、排尿・排便機能に障害が出ることがあります。L1~L3レベルの損傷では、股関節の動きに制限が出ることが多いです。歩行には装具や杖が必要となる場合が多く、車椅子を利用することもあります。

L4~L5レベルの損傷では足首の動きに制限が出ることがあります。歩行は可能ですが、長距離の歩行や階段の昇降は困難になるケースが多いです。

仙髄損傷(S1~S5)

仙髄は、脊髄の下部に位置し、S1~S5までの5つの神経根からなります。仙髄損傷では、排尿・排便機能、性機能、足の裏の感覚などに影響が出ることがあります。日常生活では、排泄ケアや性生活への適応が必要です。

脊髄損傷は、損傷のレベルや程度、そして合併症の有無などによって一人ひとりの症状が大きく異なります。脊髄損傷は、患者さんの人生に大きな影響を与えるため、医療チームによる包括的なサポートが重要です。

脊髄損傷の治療法4選

脊髄損傷の4つの治療法は以下のとおりです。

  • 薬物療法
  • 手術療法
  • リハビリテーション
  • 最新の再生医療

薬物療法

脊髄損傷後には、痛みやしびれ、筋肉の痙縮(けいれん)、自律神経過反射などのさまざまな症状が現れることがあります。症状を和らげるために、薬物療法が重要な役割を果たす場合があります。薬の種類と効果は以下のとおりです。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):炎症や痛みを抑える
  • ステロイド:炎症の広がりを抑え、神経のダメージを軽減する
  • 抗けいれん薬:筋肉の痙縮(不随意な筋肉の収縮)を軽減する
  • 抗うつ薬:精神的な安定を図る

薬物療法は、患者さんの症状や状態に合わせて、複数の薬剤を組み合わせることもあります。副作用にも注意しながら、医師と相談して適切な薬を選択することが大切です。

手術療法

脊髄損傷に対する手術療法は、主に脊髄への圧迫を取り除いたり、脊椎を安定させたりするために行われます。主な手術方法には以下のものがあります。

  • 除圧手術:骨折片や椎間板ヘルニアなどによって圧迫されている脊髄を取り除く
  • 脊椎固定術:金属プレートやボルトなどを用いて脊椎を固定する

手術療法は、損傷の程度や部位、患者さんの全身状態などを考慮して、適切な方法が選択されます。手術にはリスクや合併症も伴うため、医師から十分な説明を受け、納得したうえで手術を受けることが重要です。

手術にかかる費用や保険の適用範囲について不安を感じる方も多いかと思います。以下の記事では、手術の種類ごとの費用相場や保険適用の条件について詳しく解説していますので、検討中の方はぜひご確認ください。
>>椎間板ヘルニアの手術の費用相場と保険適用の条件を詳しく解説

リハビリテーション

脊髄損傷からの回復には、リハビリテーションが重要です。リハビリテーションでは、身体機能の回復だけでなく、日常生活動作の改善や社会復帰支援など、多岐にわたるサポートを提供します。主なリハビリテーションの内容は以下のとおりです。

  • 理学療法:筋力トレーニングやストレッチ、歩行訓練
  • 作業療法:日常生活動作(食事、着替え、トイレの使用など)の練習
  • 言語療法:発音や嚥下機能の改善のための訓練

リハビリテーションは、長期にわたって継続して行うことが重要です。目標を設定し、積極的に取り組むことで、より効果的なリハビリテーションが期待できます。

最新の再生医療

脊髄損傷の治療において、近年、再生医療が注目されています。再生医療は、損傷した神経細胞を再生させることを目指す新しい治療法です。主な再生医療には、幹細胞移植細胞外小胞(EVs)由来マイクロRNA(miRNAs)があります。

幹細胞とは、多様な種類の細胞に分化する能力を持つ細胞です。幹細胞を脊髄に移植することで、損傷した神経細胞の再生を促進する効果が期待されています。骨髄間葉系幹細胞(MSCs)移植は、症状が重い脊髄損傷患者において、運動機能や感覚機能の改善が報告されており、現在も検証が続けられています。

細胞外小胞(EVs)は、細胞から分泌される小さな膜小胞であり、miRNAsなどのさまざまな分子を含む組織です。miRNAsは遺伝子の発現を調節する役割を持つ小さなRNA分子です。EVs由来miRNAsは、神経細胞の再生や炎症の抑制に関与していることが示唆されており、脊髄損傷の治療への応用が期待されています。

再生医療は、まだ研究段階にある治療法も多く、臨床応用に向けてさまざまな研究が進められています。今後の発展により、脊髄損傷の治療に新たな可能性が開かれることが期待されます。

脊髄損傷の予後

脊髄損傷の予後について、以下を解説します。

  • 回復の見込み
  • 日常生活への適応
  • 精神的なケア
  • 社会復帰支援

回復の見込み

脊髄損傷からの回復の見込みは、損傷の重症度や部位、年齢、合併症の有無など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。回復の過程は人それぞれであり、一概にどの程度回復するとは断言できません

脊髄損傷の重症度は、ASIA機能障害スケール(AIS)を用いて評価されます。スケールはA~Eまでの5段階に分類され、Aが最も重症で、Eは正常を意味します。一般的に、Aに近いほど回復は難しく、Eに近いほど回復しやすいです。

損傷部位も回復に大きく影響します。頸髄損傷の場合、呼吸機能や四肢の運動機能に影響が出やすいため、重症化しやすく、回復も困難なケースが多いです。年齢も回復に影響する要因の一つです。若い方ほど神経の可塑性が高いため、回復しやすい傾向があります。

合併症の有無も重要です。褥瘡(床ずれ)や尿路感染症、呼吸器合併症などは、回復を遅らせたり、新たな障害を引き起こしたりする可能性があります。合併症を予防するためには、日々のケアや定期的な検査が重要です。早期にリハビリテーションを開始することも、回復を促進するうえで重要です。

リハビリテーションは、身体機能の回復だけでなく、精神的なサポートにもつながります。回復の見込みは個人差が大きいため、医師やリハビリテーションスタッフとよく相談し、焦らずに治療に取り組むことが大切です。

日常生活への適応

脊髄損傷後は、日常生活におけるさまざまな活動への適応が必要です。症状に合わせて生活環境を調整し、必要な介助や支援を受けながら、自立した生活を目指していくことが大切です。

日常生活動作(ADL)と呼ばれる、食事や着替え、入浴、トイレの使用などの基本動作についても、脊髄損傷のレベルによって困難が生じることがあります。日常動作が困難な場合、助具や福祉用具を活用することで、身体機能の低下を補い、日常生活の自立度を高められる場合があります。

自宅のバリアフリー化も重要なポイントです。手すりの設置や段差の解消、浴室の改修など、住環境を整備することで、安全で快適な生活を送れる可能性が高まります。公共交通機関や公共施設のバリアフリー化も進展しており、社会参加の機会も広がっています。

精神的なケア

脊髄損傷は、身体的な変化だけでなく、精神的な影響も大きいものです。将来への不安や社会からの孤立感、自尊心の低下など、さまざまな精神的な問題に直面する可能性があります。ご自身の感情や考えを整理するために、日記をつけたり、信頼できる人に話を聞いてもらったりするのも効果が期待できます。

他の脊髄損傷者との交流も、精神的な支えとなります。同じような経験を持つ人々とつながり、悩みを共有することで、孤立感や不安を軽減し、前向きな気持ちを取り戻せる場合があります。

社会復帰支援

脊髄損傷からの回復は、社会復帰を目指すうえでも重要な目標です。リハビリテーションを通じて身体機能や日常生活動作を改善し、仕事や学業、趣味など、社会生活への復帰を目指します。

社会復帰を支援するための制度やサービスも充実しています。障害年金や介護保険、就労支援などの支援制度を活用することで、経済的な負担を軽減し、社会参加を促進できます。

脊髄損傷後の社会復帰は、患者さんにとって大きな目標となります。医療現場では、医師や看護師、リハビリテーションスタッフ、ソーシャルワーカーなどが連携し、患者さんの社会復帰を支援しています。

まとめ

脊髄損傷は、交通事故や転倒など、突発的な出来事が原因で起こり、日常生活に大きな影響を及ぼします。脊髄損傷の程度はさまざまで、損傷部位や重症度によって症状も大きく異なります。治療法には、薬物療法や手術療法、リハビリテーション、最新の再生医療などがあり、患者さんの状態に合わせて最適な治療法が選択されます。

脊髄損傷からの回復には、リハビリテーションが不可欠です。長期的な視点で、身体機能の回復、日常生活動作の改善、社会復帰を目指します。精神的なケアも重要であり、患者さんやご家族が安心して生活を送れるように、医療チームによるサポート体制が整えられています。

脊髄損傷は人生における大きな試練となりますが、諦めずに前向きに取り組むことで、より良い生活を目指せます。この記事が、脊髄損傷についての理解を深め、患者さんやご家族の希望につながることを願っています。

脊髄損傷と同様に神経への圧迫が問題となる疾患として、「椎間板ヘルニア」も挙げられます。以下の記事では、椎間板が神経を圧迫する仕組みや原因、症状、対策について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアとは?椎間板の神経を圧迫する原因や症状・対策を解説

参考文献

Mou C, Wang X, Li W, Li Z, Liu N, Xu Y. Efficacy of mesenchymal stromal cells intraspinal transplantation for patients with different degrees of spinal cord injury: A systematic review and meta-analysis. Cytotherapy, 2023, 25(5), p.530-536.

Lim YJ, Seo MS, Park WT, Park S, Lee GW. Extracellular vesicle-derived MicroRNAs as potential therapies for spinal cord and peripheral nerve injuries. RNA Biol, 2025, 22(1), p.1-9.

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