腰痛や足のしびれといった症状が椎間板ヘルニアによるものである場合、治療法の選択肢の一つとして手術が挙げられます。近年では、椎間板ヘルニアに対する手術技術が著しく進歩しました。顕微鏡や内視鏡を用いた方法に加え、日帰りで受けられるレーザー治療など、多様な選択肢が存在します。
この記事では、代表的な4つの手術法をご紹介します。それぞれの特徴とメリット・デメリット、術後の回復期間やリハビリの方法についても解説します。
再発を防ぐための予防策にも触れていますので、術後の生活を見据えた準備に役立ててください。手術が必要とされるケースや、保存療法との違いについても取り上げています。治療法を検討する際の判断材料として、参考にしてください。
目次
椎間板ヘルニアの代表的な手術法4選
椎間板ヘルニアの代表的な手術法は、以下の4つです。
- 顕微鏡下椎間板摘出術(MD法)
- 内視鏡下椎間板摘出術(MED)
- レーザー椎間板減圧術(PLDD)
- オゾン椎間板減圧術(PODD)
顕微鏡下椎間板摘出術(MD法)
顕微鏡下椎間板摘出術(MD法)は、手術室に顕微鏡を導入して行う方法です。皮膚を約2〜5cm切開し、筋肉を少しだけ剥がした後に、手術用顕微鏡で患部を拡大して確認しながら、椎間板ヘルニアの原因となる突出部分を取り除きます。顕微鏡を用いることで、神経や血管などの重要な組織を見極めながら、丁寧に処置を進めることが可能です。
顕微鏡下椎間板摘出術は、ヘルニアのサイズが大きい場合や神経への圧迫が強いケースにも対応できる術式です。適応範囲が広いという利点がありますが、ある程度の筋肉損傷を伴うことがあります。
手術時間は比較的長めで、1~2時間を要することもあります。術後は1~2週間ほどの入院が必要になり、回復を促すためにはリハビリテーションも欠かせません。
内視鏡下椎間板摘出術(MED)
内視鏡下椎間板摘出術(MED)は、1cmほどの小さな切開部から、内視鏡と呼ばれる細い管を挿入し、モニターを確認しながらヘルニアを取り除く手術です。内視鏡の先端には、カメラとライトが搭載されており、患部を鮮明に映し出せます。傷口が小さいため、身体への負担が軽く、術後の回復も比較的早い傾向です。
内視鏡下椎間板摘出術は、ヘルニアが小さいケースや、特定の部位に限局している場合に適応される低侵襲脊椎手術の一つです。身体への影響を抑えながら、従来の開腹手術と同等の効果が期待できます。切開が小さくて済むうえ、回復が早く、入院期間も短縮される点がメリットです。
通常、入院は4~6日程度で、術後2~4日ほどで退院できるケースもあります。内視鏡下椎間板摘出術は、すべての椎間板ヘルニアに適応できるわけではなく、ヘルニアの状態で、他の手術法が選ばれる可能性もあります。
レーザー椎間板減圧術(PLDD)
レーザー椎間板減圧術(PLDD)は、皮膚に針穴ほどの小さな穴をあけ、レーザーファイバーを挿入して、ヘルニアの一部を蒸発させることで、神経の圧迫を和らげる手術です。切開をほとんど行わないため、身体への負担が少なく、日帰りでの実施も可能です。
レーザー椎間板減圧術は、軽度から中等度の椎間板ヘルニアに対して行われます。入院は不要で、手術後すぐに帰宅できる点も特徴の一つです。効果が現れるまでに時間がかかるケースもあります。
オゾン椎間板減圧術(PODD)
オゾン椎間板減圧術(PODD)は、レーザー椎間板減圧術と同様に皮膚に小さな穴をあけて行う低侵襲の手術です。オゾンと酸素の混合ガスを椎間板内に注入し、神経の圧迫を緩和します。オゾンガスには、ヘルニア内の水分を減らし、膨らんだ椎間板を縮小させる働きがあります。
オゾン椎間板減圧術は、軽度から中等度のヘルニアに対して適応され、入院の必要がなく、手術後すぐに帰宅することも可能です。身体への負担が少ない利点はありますが、効果が現れるまで時間がかかることもあります。症状や状態によっては、効果が限定的な場合もあるため注意が必要です。
こうした各種手術の選択肢を検討する際には、気になる費用面や保険の適用条件も重要な判断材料となります。以下の記事では、椎間板ヘルニアの手術にかかる費用相場や、保険適用の詳細についてわかりやすく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの手術の費用相場と保険適用の条件を詳しく解説
椎間板ヘルニアの手術の適応と効果
椎間板ヘルニアの手術の適応と効果について、以下の項目を解説します。
- 手術の目的と期待できる効果
- 保存療法との違い
- 手術が勧められるケース
- 起こりうる合併症とその対処法
- 手術を受けるか迷ったときの判断ポイント
手術の目的と期待できる効果
椎間板ヘルニアの手術は、飛び出した椎間板によって神経が圧迫されている状態を取り除き、痛みやしびれといった症状の改善を目的としています。手術によって、足の筋力低下や感覚障害などの神経症状が軽減され、痛みやしびれの緩和も期待できる可能性があります。
すべての人に同じような効果が現れるわけではありません。手術にもリスクや合併症が伴うため、慎重な判断が求められます。ご自身に合った治療法を選択するためにも、医師としっかり話し合いを行いましょう。
保存療法との違い
保存療法とは、手術を行わずに薬やリハビリ、神経ブロック注射などを用いて症状の改善を図る治療法です。手術療法は、ヘルニアを直接取り除いたり、縮小させたりすることを目的とします。
保存療法で効果が見られない場合や、症状が強く日常生活に支障をきたしている場合に選択肢として検討されます。保存療法と手術療法には、それぞれ利点と課題があり、状況に応じた選択が求められます。以下に、それぞれの特徴をまとめましたので、治療方針を決める際の参考にしてください。
治療法 | メリット | デメリット |
保存療法 | 身体への負担が少ない | ・効果が出るまでに時間がかかる ・効果が限定的である場合がある |
手術療法 | ・症状の改善が早い場合がある ・高い効果が期待できる場合がある | ・身体への負担がある ・合併症のリスクがある |
さらに詳しい治療法の選び方や、それぞれの治療法がどのようなケースに適しているのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの治療法を解説!手術と保存療法の選び方
手術が勧められるケース
保存療法を数週間〜数か月続けても、症状の改善が見られない場合や、痛みが強くて日常生活に著しい支障が出ている場合には、手術を検討する必要があります。以下のケースが該当します。
- 足のしびれや筋力低下が進行している
- 排尿や排便に障害が生じている
- 激しい痛みが継続している
- 仕事や生活に深刻な影響を及ぼしている
排尿や排便に関連する障害が現れている場合は、緊急対応が求められることがあります。症状に当てはまる場合、早めに医療機関の受診をおすすめします。
起こりうる合併症とその対処法
椎間板ヘルニアの手術は、一般的に確立された方法ですが、合併症のリスクが存在します。低侵襲手術は合併症のリスクを低減できる可能性がありますが、リスクを完全にゼロにすることはできません。起こりうる合併症と対処法について、以下の表をご参照ください。
合併症 | 対処法 |
感染 | 抗菌薬の投与 |
出血 | 止血処置 |
神経損傷 | 薬物療法、リハビリテーション |
硬膜損傷 | 手術による修復 |
術後の痛み | 鎮痛剤の投与 |
合併症を早期に発見し、適切な対処を行うためには、術後の経過観察が重要です。医師の指示に従い、定期的な検査を受けることをおすすめします。気になる症状があれば、早めに相談しましょう。
手術を受けるか迷ったときの判断ポイント
手術を受けるかどうか迷った際は、まず医師に相談し、手術のメリットやデメリット、リスク、合併症について十分に説明を受けることが重要です。手術を受けるかどうかを判断する際のポイントは、以下のとおりです。
- 症状の重さ:日常生活への支障があるか
- 保存療法の効果:症状が改善しているか
- 手術のリスクと合併症:リスクや合併症を理解しているか
- 自身のライフスタイル:手術後の療養が可能か
- 手術後の生活への影響:手術後のリハビリや生活の制限に対応できるか
手術を受けるかどうか判断のポイントを踏まえ、医師とよく相談し、ご自身の状況に合った最善の選択をしましょう。セカンドオピニオンを求めることも有効な手段の一つです。
椎間板ヘルニアの手術後の経過と回復期間
椎間板ヘルニアの手術後の経過と回復期間について、以下の項目を解説します。
- 入院期間と復帰までの流れ
- 術後の痛みやしびれの経過
- リハビリの進め方と注意点
- 再発を防ぐ生活習慣
- 自宅でできるリハビリ法
入院期間と復帰までの流れ
入院期間は、手術の方法や患者さんの状態によって大きく変わります。MED(内視鏡を用いた手術)の場合、入院は4日〜6日程度となり、そのうち2日〜4日ほどで退院できるケースが一般的です。PLDDやPODD(レーザーやオゾンを使った手術)の場合は、日帰りにも対応しています。
退院後は、日常生活に少しずつ戻る流れです。短時間の歩行や軽い家事など、無理のない範囲から始め、体調を見ながら徐々に活動量を増やすことが大切です。無理をすると回復が遅れる恐れがあります。
仕事への復帰時期については、仕事内容や回復の進み具合に応じて異なります。デスクワークが中心であれば、比較的早く職場に戻れる可能性があります。身体を使う作業が多い方は、医師と相談しながらの慎重な判断をおすすめします。焦らず、身体の状態に合わせて少しずつ元の生活を取り戻していきましょう。
術後の痛みやしびれの経過
手術直後は、傷の痛みや手術部位の腫れ、あるいは患部に違和感を覚えることがあります。時間とともに次第に落ち着いていく傾向があります。痛みやしびれの程度や続く期間には個人差が見られます。
強い痛みやしびれが長引くときには、無理をせず、速やかに医師へ相談するようにしましょう。症状に応じて、医師が適切な評価を行い、最善の対応策を提案します。
リハビリの進め方と注意点
リハビリテーションは、再発を防ぐうえでも有効です。リハビリの内容は、患者さんの状態に応じて医師や理学療法士が個別に計画します。それぞれの状況に合わせたプログラムが組まれるため、安心して取り組むことができます。
初期段階では、主にストレッチや軽い筋力トレーニングを行うことが多いです。痛みを感じない範囲で、無理なく続けることが重要です。自分のペースで少しずつ進めていきましょう。徐々に運動の強度を高め、最終的には日常生活で必要な動作をスムーズにこなせるよう目指します。
リハビリの途中で痛みを感じた場合は、すぐに中止し、医師や理学療法士に相談してください。無理に続けると、症状が悪化する可能性がありますので注意が必要です。
再発を防ぐ生活習慣
椎間板ヘルニアは、再発しやすい病気の一つです。手術後も再発を防ぐために日常生活の中で、以下の点に注意が必要です。
- 正しい姿勢を保つこと
- 重いものを持ち上げるときは膝を使うこと
- 適度な運動を取り入れること
- バランスの良い食事を心がけること
- 十分な睡眠をとること
立っているときも座っているときも、背筋を伸ばし、良い姿勢を意識してください。猫背は椎間板に大きな負担をかけるため、注意が必要です。腰を曲げたまま持ち上げると、椎間板への負担が増します。膝をしっかり曲げて腰を落とした姿勢から持ち上げるようにしましょう。
ウォーキングや水泳などの軽い運動は、腰回りの筋力を高め、椎間板への負担を軽くすることが期待できます。栄養のバランスが取れた食事は、健康な身体を保つために不可欠です。骨や筋肉の材料となるカルシウムやタンパク質は積極的に摂取しましょう。
睡眠不足は、身体の回復力を低下させ、痛みを感じやすくする要因となります。規則正しい生活を心がけ、質の良い睡眠を確保しましょう。睡眠は、身体の修復に重要な役割を担っています。
自宅でできるリハビリ法
自宅で手軽にできる、簡単なリハビリを3つご紹介します。1つ目は、かかと上げ運動です。床に立った状態で、かかとを上げ下げする動きです。ふくらはぎの筋肉を鍛えることで、血行の促進が期待できます。
2つ目は、ドローインです。仰向けに寝て膝を立て、お腹をへこませる運動です。腹部の筋肉を鍛え、腰を安定させる効果があります。3つ目は、ストレッチです。腰や太ももの裏側をしっかりと伸ばすことで、筋肉の柔軟性を高めることができます。
継続することで、痛みの軽減にもつながります。リハビリは、痛みを感じない範囲で行うことが大切です。痛みが出た場合は、すぐに中止し、無理をしないようにしましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアに対して自宅で無理なく取り組めるストレッチ方法を紹介しています。筋肉の柔軟性を高め、痛みの緩和に役立つ内容を詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
>>椎間板ヘルニアの改善が期待できるストレッチ!自宅でできる痛み軽減法
まとめ
椎間板ヘルニアの手術には、MD法やMED、PLDD、PODDなど複数の方法があります。手術の目的は、神経の圧迫を取り除き、痛みやしびれなどの症状を軽減することです。
手術を選択するかどうかは、症状の程度や保存療法の効果、手術のリスクを踏まえ、医師とよく相談して判断することが大切です。術後はリハビリテーションも重要で、自宅でできる簡単なリハビリも体調に合わせて継続することがすすめられます。
椎間板ヘルニアは再発の可能性もあるため、術後も正しい姿勢や適度な運動、バランスの良い食生活を心がけ、予防に努めましょう。
椎間板ヘルニアによって突然激しい痛みが生じ、歩行が困難になるケースもあります。そのような急性の症状が出た場合の応急処置や、適切な対応方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアで激痛が出て歩けないときの緊急対処法
参考文献
D Scott Kreiner, Steven W Hwang, John E Easa, Daniel K Resnick, Jamie L Baisden, Shay Bess, Charles H Cho, Michael J DePalma, Paul Dougherty 2nd, Robert Fernand, Gary Ghiselli, Amgad S Hanna, Tim Lamer, Anthony J Lisi, Daniel J Mazanec, Richard J Meagher, Robert C Nucci, Rakesh D Patel, Jonathan N Sembrano, Anil K Sharma, Jeffrey T Summers, Christopher K Taleghani, William L Tontz Jr, John F Toton; North American Spine Society. An evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of lumbar disc herniation with radiculopathy. The Spine Journal, 2014, 14(1), p.180-191.
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