腰に痛みやしびれを感じている方は、椎間板ヘルニアの可能性があります。椎間板ヘルニアの診断を受けると、手術への不安を感じる方が多くいます。手術は症状の改善に効果が期待できる治療法ですが、感染症や神経損傷、合併症が生じる可能性があります。
この記事では、椎間板ヘルニアの手術に伴うリスクや合併症、手術後の回復期間の目安について解説します。手術を検討する前に、正しい情報を把握し不安を和らげることが大切です。つらい腰の痛みやしびれから解放され、快適な日常を目指しましょう。
目次
椎間板ヘルニアの手術方法とそれぞれの特徴
椎間板ヘルニアの手術方法について、以下の4つを特徴もあわせて解説します。
- 内視鏡下椎間板摘出術(PELD)
- 顕微鏡下椎間板摘出術(MED)
- 開放的椎間板摘出術
- 椎体間固定術
内視鏡下椎間板摘出術(PELD)
内視鏡下椎間板摘出術は、約7〜8mmの小さな切開から内視鏡を挿入して行う手術です。内視鏡のカメラで患部を観察しながら、専用の器具でヘルニアを摘出します。体への負担と出血量が比較的少なく、入院期間は2〜3日程度となることがあります。
筋肉や骨を広範囲に切開しないため、術後の痛みが軽減され日常生活への復帰が比較的早くなる場合があります。難易度が高く、経験豊富な医師が行うことが重要です。大きなヘルニアや、特定の位置にあるヘルニアには適応できない場合があるため、術前の詳細な検査と診断が重要です。
顕微鏡下椎間板摘出術(MED)
顕微鏡下椎間板摘出術は、約2〜3cmの切開から手術用顕微鏡を使って行う手術です。顕微鏡により拡大された視野で行われ、神経への損傷リスク軽減が期待できます。内視鏡手術と比較すると広い視野で操作できるため、さまざまなタイプのヘルニアに対応できる可能性があります。
開放手術より切開部位が小さいため、術後の痛みが軽減され回復が早まる可能性があります。入院期間は症例により異なりますが、1週間程度となる場合があります。
開放的椎間板摘出術
開放的椎間板摘出術は、従来から行われている手術法の一つです。背中を約5〜10cm切開し、筋肉を左右に展開します。直接確認しながら手術を行うため、複雑な形状や大きなヘルニア、癒着がある症例にも対応できる場合があります。
筋肉を広く切開するため術後の痛みが比較的強く、回復に時間がかかる場合があります。入院期間は個人差がありますが、2週間程度となることが多いです。近年は内視鏡や顕微鏡を用いた手術が増えていますが、患者さんの状態によっては開放手術が適している場合があります。
椎体間固定術
椎体間固定術は、ヘルニア摘出後に脊椎をインプラントなどで固定する手術です。主に脊椎すべり症や脊柱管狭窄症、あるいは脊椎の構造的安定性が損なわれた場合に、手術の選択肢として考慮されることがあります。
この手術では、まず椎間板を除去し、その空いたスペースに人工骨または自家骨を充填します。その後、スクリューやロッドといった固定器具を使用して、脊椎の安定性を確保します。再発のリスクを抑える効果が期待されますが、手術の侵襲度がやや高く、術後の回復には時間を要するケースもあります。
一般的に、入院期間はおおよそ2〜4週間程度で、退院後もリハビリテーションが必要となります。特に、固定された部位の可動域が制限されるため、その分、隣接する椎間にかかる力が増し、将来的に別の部位へ負担が集中する可能性がある点にも注意が必要です。
術後の生活では、医師や理学療法士の指導のもと、日常動作や姿勢の見直し、適切な運動を段階的に取り入れることが回復を支える鍵となります。患者さんご自身が手術の目的と術後のリスクをしっかり理解し、長期的な視点でケアを続けることが重要です。
椎間板ヘルニア手術におけるリスク
椎間板ヘルニアの手術は、痛みやしびれなどの症状改善が期待できる治療法です。症状が早期に改善する可能性がありますが、合併症のリスクもあります。手術に伴うリスクとして、以下の3つを解説します。
- 感染症
- 神経損傷
- 硬膜損傷
感染症
手術を行うことで、傷口から細菌が侵入し感染症や炎症を引き起こすことがあります。皮膚の常在菌などが、手術中に体内に侵入したことが原因の可能性があります。椎間板ヘルニアの手術は、傷口の範囲が広い場合や手術が長時間に及ぶ場合、感染リスクが高まる可能性があります。
内視鏡を用いた手術は傷口が小さく、感染症リスクの軽減が期待できます。手術の難易度が高まるため、執刀医の技術と経験が重要になります。手術によって感染症を引き起こした場合、以下の症状が現れることがあります。
- 傷口が赤く腫れる
- 傷口が熱を持つ
- 傷口から黄色や緑色の膿が出る
- 寒気など全身に及ぶ症状が現れる
症状に気づいたらすぐに医師に相談しましょう。多くの場合は抗生物質の投与で治療できますが、重症化すると再手術が必要になるケースもあります。
神経損傷
椎間板ヘルニアの手術は神経が近くにあるため、神経を損傷するリスクがあります。神経が傷つくと麻痺やしびれ、痛みなどの症状が現れることがあります。短期間で症状が改善するケースもあれば、長期間続く場合もあります。
神経損傷は手術によってまれに起こる可能性があり、顕微鏡や内視鏡を用いてもリスクをゼロにはできません。術後に麻痺やしびれが現れた場合は、すぐに医師に相談しましょう。早期に適切な対応により、後遺症を最小限に抑えることが期待できます。
硬膜損傷
硬膜損傷は脳と脊髄を覆っている保護膜が傷ついてしまうことです。椎間板ヘルニアの手術で硬膜が損傷すると、脳脊髄液が漏れる可能性があります。脳脊髄液が漏れると、以下の症状が現れる可能性があります。
- 激しい頭痛
- めまい
- 吐き気
硬膜が損傷すると、手術での修復が必要となる場合があります。髄液が漏れている場合は、安静を保ち髄液の漏れを止める必要があります。ドレーンと呼ばれる管で、髄液を体外に排出する処置が必要になることもあります。
PELD(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)は、内視鏡を使って小さな切開から行うため、体への負担軽減が期待できる手術です。神経や硬膜を直接確認しながら処置ができ、リスクの軽減にもつながります。神経根損傷などの合併症が起こるケースが報告されているため、経験豊富な医師が行うことが重要です。
椎間板ヘルニア手術における合併症
椎間板ヘルニアの手術は合併症のリスクがあります。合併症は手術中に起こるものや、手術後にしばらく経ってから現れるものがあります。椎間板ヘルニアの手術における合併症について、以下の3つを解説します。
- 血栓症
- 髄液漏
- 痛みの残存
血栓症
血栓症が起こると血管の中に血の塊ができ、血流が妨げられます。椎間板ヘルニアの手術中に同じ姿勢を長時間続けていることや、出血の影響で血液が固まりやすくなります。手術後は安静を保つ必要があるため、血流が滞りやすく、血栓症のリスクが高まる可能性があります。
症状が現れた場合、すぐに医師に相談することが大切です。血栓症は足の静脈に起こりやすく、以下の症状が現れることがあります。
- ふくらはぎに痛みや腫れを感じる
- 片足が腫れる
- 患部が熱く感じる
- 皮膚の色が赤や紫色に変色する
血栓症は狭い場所で長時間同じ姿勢でいると発症しやすいため、エコノミークラス症候群と呼ばれることがあります。血液の流れを改善し、血栓の形成を防ぐ対策が必要です。血栓症を防ぐ効果が期待できる方法は、以下のとおりです。
- 手術後は早めに足を動かす
- 弾性ストッキングを着用する
- 水分をこまめに摂る
髄液漏
髄液漏(ずいえきろう)は手術によって硬膜が損傷し、脳や脊髄を保護する髄液が漏れ出す合併症です。髄液が漏れると、以下の症状が現れることがあります。
- 激しい頭痛
- 吐き気
- めまい
- 傷口から透明な液体が出る
髄液漏が疑われる場合は安静にして、すぐに医師に連絡することが重要です。軽度の場合は安静にすることで自然に治癒する場合があります。重度の場合は、再手術が必要になることもあります。早期に発見して治療することが何よりも重要です。
痛みの残存
椎間板ヘルニアの手術は、多くの場合痛みやしびれの軽減を目的として行われます。長期間神経を圧迫していた場合や、神経の損傷が重度の場合、手術後も痛みが残るケースがあります。手術によって神経が刺激され、一時的に痛みが悪化することもあります。
痛みが残存する場合、薬物療法やリハビリテーションなどで痛みの軽減を目指します。痛みの程度や原因に応じて、適切な治療法を選択することが重要です。手術後も痛みが続く場合は、医師に相談し適切な治療を受けましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアからの早期回復を目指すために役立つ生活習慣の工夫について詳しく解説しています。日常生活の中で実践できる具体的な方法を知りたい方はぜひご覧ください。
>>椎間板ヘルニアを早く治す方法!回復を促進する生活習慣
椎間板ヘルニア手術後の回復期間とリハビリテーション
手術後の回復期間やリハビリテーションについて、以下の4つを解説します。
- 回復期間の目安
- リハビリテーションの内容と期間
- 日常生活への復帰時期の目安
- 再発予防のための生活習慣改善策
回復期間の目安
椎間板ヘルニアの手術後の回復期間は、手術の方法やヘルニアの程度、年齢、体質、合併症の有無によってさまざまです。手術後1〜2か月で症状が軽減する場合や、数か月〜1年以上かかる場合があります。顕微鏡手術や内視鏡手術の場合は1週間程度で退院できるケースもありますが、開腹手術の場合2週間以上かかることもあります。
リハビリテーションの内容と期間
リハビリテーションは手術後の回復を促進し、再発予防が期待できます。開始時期や内容は、患者さんの状態に合わせて医師や理学療法士が判断することがあります。代表的なリハビリテーションの特徴と効果は、以下のとおりです。
方法 | 特徴 | 効果 |
ストレッチ | 筋肉の柔軟性を高め、関節の可動域を広げる | 硬くなった筋肉を伸ばすことで血行が促進され、痛みの軽減につなげる |
筋力トレーニング | 弱くなった筋肉を強化し、体のバランスを整える | 腰への負担を軽減させ、再発予防を目指す |
歩行訓練 | 安静により衰えた筋肉を刺激する | 全身の持久力を向上させ、手術後の早期回復を目指す |
リハビリテーションの期間は数か月〜1年以上かかる場合もあります。医師や理学療法士の指示に従い、焦らずに進めることが何よりも大切です。
日常生活への復帰時期の目安
日常生活への復帰時期の目安は、仕事内容や生活環境、回復状況によって異なります。デスクワークは比較的早く仕事に戻れる可能性がありますが、肉体労働の場合は医師と相談しながら慎重に判断する必要があります。腰への負担を避けるため、日常生活で注意すべきことは以下のとおりです。
- 重いものを持つ
- 無理な姿勢を続ける
- 長時間同じ姿勢を続ける
日常生活への復帰後は定期的に休憩を取り、軽いストレッチなども行いましょう。
再発予防のための生活習慣改善策
椎間板ヘルニアは再発しやすい病気です。おすすめの改善策と特徴は、以下のとおりです。
- 正しい姿勢を保つ:姿勢を意識して座ったり立ったりする
- 適度な運動をする:ウォーキングなどを習慣づける
- 体重管理を心がける:バランスの良い食事を摂り、体重を適正に保つ
- 腰回りの筋肉を鍛える:腰痛体操などを生活に取り入れる
- 禁煙をする:血行改善のため、必要に応じて医師のサポートを受ける
医師や理学療法士の指導を受けることで、安全で高い効果が期待できます。手術後は体の状態が変化しやすいため、専門家のサポートを受けながら生活習慣の改善を目指しましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの手術後に気をつけたい生活上の注意点や、回復をスムーズに進めるための具体的なコツについて詳しく解説しています。術後の不安がある方は、ぜひご確認ください。
>>椎間板ヘルニアの手術後の生活で注意するべきことと回復のコツ
まとめ
椎間板ヘルニアの手術は痛みやしびれの改善が期待できる治療法ですが、感染症や神経損傷、硬膜損傷などのリスクがあります。血栓症や髄液漏、痛みの残存などの合併症が起こる可能性もあることから、手術を受ける前に医師へ必ず相談をしましょう。
手術後のリハビリテーションは回復を促進し、再発予防が期待できます。日常生活への復帰時期は、仕事内容や回復状況によってさまざまです。症状の再発予防を目指すためのおすすめの改善方法は以下のとおりです。
- 正しい姿勢を保つ
- 適度な運動をする
- 体重管理を心がける
- 腰回りの筋肉を鍛える
- 禁煙をする
医師や理学療法士の指示に従い、無理なく症状の改善を目指しましょう。以下の記事では、椎間板ヘルニアの手術にかかる費用の目安や保険の適用条件について詳しく解説しています。治療にかかる経済的な不安がある方は、参考にしてみてください。
>>椎間板ヘルニアの手術の費用相場と保険適用の条件を詳しく解説
参考文献
Pan P, Li Q, Li S, Mao H, Meng B, Zhou F, Yang H. Percutaneous Endoscopic Lumbar Discectomy: Indications and Complications. Pain Physician, 2020, 23, 1, p.49-56.
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