腰や脚の痛み・しびれに悩んでいませんか?その痛みを放っておくと日常生活に大きな支障をきたす「椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄症」につながる可能性があります。どちらも背骨の疾患ですが、症状の出方や原因が全く違います。椎間板ヘルニアは20~50代に多く、片側の鋭い痛みと坐骨神経痛が特徴です。
脊柱管狭窄症は50代以降に多く、両側の鈍い痛みと歩行時の痛みやしびれを繰り返す「間欠性跛行」が特徴です。この記事では、椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の原因・症状・治療法の違いを徹底解説します。画像診断による見分け方や、効果的な予防法まで詳しくご紹介します。
腰の痛みを我慢せず、快適な毎日を送るためのヒントになりますので参考にしましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの初期に現れやすいサインや症状について詳しく解説しています。早期発見が回復の鍵となるため、該当する症状がある方はぜひ参考にしてみてください。
>>椎間板ヘルニアの初期症状と見逃せないサイン!早期発見のポイント
目次
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の違いを理解する3つのポイント
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の違いを理解する3つのポイントとして、以下の内容を解説します。
- 症状の違い:痛み方、しびれの部位、姿勢による変化
- 原因の違い:加齢、生活習慣、遺伝的要因
- 画像診断の違い:MRI、CT、レントゲン写真
症状の違い:痛み方、しびれの部位、姿勢による変化
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症は、いずれも下肢の痛みやしびれを引き起こしますが、その症状の現れ方や進行の仕方には明確な違いがあります。特に、痛みの性質やしびれの分布、姿勢による症状の悪化のパターンは、診断において重要なポイントです。以下にそれぞれの疾患の代表的な症状を比較した表を示します。
項目 | 椎間板ヘルニア | 脊柱管狭窄症 |
症状の現れ方 | 急性 | 慢性 |
痛み方 | 鋭い痛み | 鈍い痛み |
しびれの部位 | 片側 | 両側 |
姿勢による変化 | 前かがみで悪化 | 前かがみで軽減 |
特徴的な症状 | 坐骨神経痛 | 間欠性跛行 |
椎間板ヘルニアの初期症状は激痛を伴うことが多く、数日~数週間でピークに達し、徐々に軽快していく傾向があります。脊柱管狭窄症は、主に両足に症状が現れ、鈍い痛みやしびれを伴います。歩行を始めると徐々に痛みやしびれが増強し、しばらく休むと再び歩けるようになるものの、またすぐに症状が現れます。
原因の違い:加齢、生活習慣、遺伝的要因
椎間板ヘルニアは、椎間板内の髄核と呼ばれるゼリー状の組織が、外側の組織(線維輪)を飛び出すことで神経を圧迫し、痛みやしびれが生じます。20~50代の比較的若い世代に多いです。重いものを持ち上げたり、前かがみの姿勢を続けたり、腰に負担がかかる動作が原因であることが多いです。
喫煙は椎間板の変性を促進し、ヘルニアのリスクを高める要因となる可能性があります。脊柱管狭窄症は、加齢に伴う背骨の変形が主な原因です。背骨にある椎間関節や黄色靭帯が厚くなったり、椎体(背骨の骨)がずれたりすることで、神経の通り道である脊柱管が狭くなります。
50代以降に多く発症し、長年のハードワークや骨粗鬆症も発症に関与していると考えられています。加齢とともに、脊柱を構成する靭帯の一つである黄色靭帯が厚く、硬くなることが脊柱管狭窄症の一因となるという研究結果も報告されています。
画像診断の違い:MRI、CT、レントゲン写真
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症を正確に診断するには、MRI検査が最も有効です。MRI検査では、椎間板の状態や脊柱管の狭窄の程度を詳しく確認できます。椎間板ヘルニアでは、飛び出した髄核が神経を圧迫している様子が鮮明に映し出されます。
脊柱管狭窄症では、脊柱管が狭くなっている部分や、神経が圧迫されている様子が確認できます。そのため、確定診断のためにはMRI検査が不可欠です。レントゲン検査では、骨の状態は確認できますが、椎間板や神経の状態まではわかりません。
CT検査は、MRI検査に比べると、椎間板や神経の状態の評価は劣ります。電気生理学的検査(神経伝導速度検査、針筋電図検査など)を行い、神経障害の程度を客観的に評価することもあります。特に下肢の筋力低下や膀胱直腸障害(排尿・排便障害)がある場合は、手術の適応を判断する材料となります。
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の治療法
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の治療法として、以下の内容を解説します。
- 薬物療法
- 理学療法
- 装具療法
- 手術療法
医師と相談のうえ、適切な治療法を選択しましょう。
薬物療法
薬物療法は、痛みやしびれなどの症状を緩和するための治療法です。痛みや炎症、神経の損傷によるしびれを和らげるなど、症状に合わせてさまざまな薬が用いられます。例えば、以下の薬が挙げられます。
- 鎮痛剤:アセトアミノフェン
- 消炎鎮痛剤:イブプロフェンやロキソプロフェン
- 神経障害性疼痛治療薬:プレガバリンやミロガバリン
鎮痛剤は痛みを抑え、消炎鎮痛剤は炎症を抑えます。神経障害性疼痛治療薬は神経の損傷による痛みやしびれを和らげます。薬は、患者さんの状態に合わせて、複数を組み合わせて使用されることもあります。副作用についても医師から説明を受け、安心して治療を受けられるようにしましょう。
理学療法
理学療法は、体の機能を改善するための治療法です。具体的には、理学療法士の指導に従いながら、以下の治療を行います。
- 腰痛体操
- ストレッチ
- マッサージ
- 温熱療法
- 電気刺激療法
腰痛体操は、腰回りの筋肉を強化することで、腰椎への負担の軽減が期待でき、痛みの緩和につながる可能性があります。ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、血行を促進することで、痛みやしびれを軽減する効果があります。マッサージは、筋肉の緊張をほぐし、血行を促進することで、痛みを和らげる効果があります。
適切な運動やストレッチを行うことで、症状の改善を目指します。理学療法は、日常生活動作の改善にもつながり、再発予防にも効果が期待できます。ストレッチとあわせて、筋力をつけることも再発予防には重要です。特に体幹を鍛えることが大切であり、腰への負担軽減がしやすくなります。
以下の記事では、椎間板ヘルニアに配慮した筋トレメニューや、実践時の注意点について詳しく紹介しています。無理のない範囲で筋トレも取り入れたい方は、ぜひご参考ください。
>>椎間板ヘルニアに効果が期待できる筋トレメニューと実践時の注意点
装具療法
装具療法は、コルセットなどの装具を装着することで、腰椎を支え、痛みを軽減する治療法です。コルセットは、腰椎の動きを制限して負担を軽減するため、安静を保つ効果があります。コルセットの種類や装着時間は、症状や生活スタイルに合わせて調整されます。
装着中は、定期的に医師の診察と適切な指導を受けることが大切です。コルセットに頼りすぎず、腰回りの筋肉を鍛えることも重要です。
手術療法
保存療法で効果が得られない場合や、症状が重い場合には、手術療法が検討されます。椎間板ヘルニアの場合は、飛び出した椎間板を切除する手術が行われます。脊柱管狭窄症の場合は、狭くなった脊柱管を広げる手術が行われます。手術には、従来の開腹手術だけでなく、内視鏡を用いた低侵襲手術もあります。
内視鏡手術の特徴として、傷の大きさが比較的小さいことや、従来の方法と比べて術後の回復期間が異なる場合があることが挙げられます。ただし、すべての場合に内視鏡手術が適応されるわけではなく、患者さんの状態や疾患の種類によって、適切な手術方法が選択されます。
研究によると腰椎手術の対象となる疾患の内訳は、椎間板ヘルニア(約37%)、ベルトロッティ症候群(約35%)、脊柱管狭窄症(約25%)となっています。生まれつきの骨格異常があると、手術の難易度が上がり、誤った部位を手術してしまうリスク(約1.4%)も報告されています。
手術を選択肢とする場合は、医師と十分に話し合い、メリットとデメリットを理解したうえで、決断することが重要です。
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の予防ポイント5選
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の予防ポイントとして、以下の5つを解説します。
- 適度な運動
- 正しい姿勢
- 体重管理
- 禁煙
- 定期的な検診
日々の生活習慣を見直し、健康な体を維持するために参考にしてください。
適度な運動
適度な運動は、椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の予防に重要です。特に、ウォーキング、水泳、ヨガなどの全身運動は、腰回りの筋肉を強化し、柔軟性を高める効果があります。運動不足だと、腹筋や背筋などの体幹を支える筋肉が衰え、腰椎への負担が増加し、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のリスクを高める可能性があります。
激しい運動は椎間板や関節に過度の負担をかけ、症状を悪化させる可能性もあるため注意が必要です。ウォーキングは、特別な道具や場所を必要とせず、手軽に始められる全身運動です。1日30分程度のウォーキングを週に数回行うだけでも、血行促進や筋力アップ、柔軟性の向上といった効果が期待できます。
水泳は、浮力によって腰への負担が少ないため、腰痛持ちの方にもおすすめの運動です。ヨガは、柔軟性を高めるだけでなく、精神的なリラックス効果も期待できます。運動を行う際には、痛みを感じない範囲で行うことが大切です。運動前後のストレッチも忘れずに行い、筋肉の柔軟性を保つように心がけてください。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状を悪化させないために、日常生活で注意すべき動作や習慣について詳しく解説しています。知らずにやってしまいがちなNG行動をチェックして、悪化を防ぎましょう。
>>椎間板ヘルニアでやってはいけないこと!悪化を防ぐ注意点
正しい姿勢
正しい姿勢の維持は、腰への負担を軽減し、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の予防につながります。猫背や前かがみの姿勢は、腰椎に大きな負担をかけるため、疾患のリスクを高める可能性があります。それぞれの姿勢で意識すべきポイントは以下のとおりです。
- 立っているとき:背筋を伸ばし、お腹を軽く引っ込めるように意識する
- 座っているとき:深く腰掛け、背もたれを使うように心がける
- 長時間同じ姿勢を続けるとき:こまめに休憩を取り、軽いストレッチなどを行うよう意識する
- デスクワークが多い場合:椅子や机の高さを調整し、正しい姿勢を保てるように環境を整える
- 重い荷物を持つ場合:膝を曲げて持ち上げるようにし、腰への負担を最小限に抑える
前かがみの姿勢で重いものを持ち上げるのは、椎間板ヘルニアの大きな原因となるため、注意が必要です。
体重管理
体重の増加は、腰への負担を増大させ、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のリスクを高めます。過剰な体重は、椎間板や関節への負担を増大させ、炎症や変性を促進する可能性があります。適正な体重を維持することは、疾患を予防するために重要です。
体重管理のためにもバランスの良い食事を心がけ、食べすぎに注意しましょう。脂質や糖質の過剰摂取は体重増加につながりやすいため、野菜や果物、タンパク質をバランス良く摂取することが大切です。適度な運動を習慣づけることで、体重管理がしやすくなります。
BMI(ボディマス指数)を目安に、適正体重を維持するようにしましょう。BMIは、体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)で計算できます。日本肥満学会では、BMIが25以上を肥満と定義しています。
禁煙
禁煙は、椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の予防だけでなく、肺がん、心臓病、脳卒中などのリスクを減らすことができ、健康寿命の延伸にもつながります。喫煙は、椎間板への血流を阻害し、椎間板の変性を促進させるため、椎間板ヘルニアのリスクを高めます。
ニコチンは血管を収縮させる作用があり、椎間板への酸素供給を減少させ、組織の修復を遅らせる可能性があります。脊柱管狭窄症においても、喫煙は症状の悪化につながると考えられています。
定期的な検診
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症は、早期発見・早期治療が重要です。自覚症状がない場合でも、定期的に健康診断を受診し、医師の診察を受けるようにしましょう。特に、40代後半以降の方は、加齢とともに疾患のリスクが高まるため、定期的な検診がより重要です。
早期に発見し、適切な治療を受けることで、症状の進行を遅らせたり、重症化を防いだりできる可能性があります。健康診断では、骨粗鬆症のチェックも同時に行うことができます。骨粗鬆症は、脊柱管狭窄症のリスクを高める要因となるため、早期発見と適切な治療が重要です。
まとめ
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症は、どちらも腰痛を引き起こす疾患ですが、症状や原因が異なるため、それぞれ適切な治療が必要です。腰痛は、日常生活に大きな影響を与えるため、早期発見・早期治療が大切です。少しでも異変を感じたら、自己判断せずに医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けましょう。
発症リスクの軽減効果については個人差はありますが、日々の生活習慣を見直し、健康な腰を維持するきっかけにしてください。もし痛みや違和感がある場合は、我慢せずに早めに医療機関を受診しましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアによる強い痛みを少しでも和らげたいときに有効な対処法や、自宅でできる即効性のあるケア方法について詳しく解説しています。つらい症状を抱える方はぜひ参考にしてください。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法と即効性が期待できる対策
参考文献
Filip Samal, Vojtech Cerny, Petr Kujal, Jakub Jezek, Jiri Skala-Rosenbaum, Josef Sepitka. Distribution of mechanical properties of native human ligamentum flavum depending on histopathological changes. Biomed Phys Eng Express, 2024, 10, 6.
Stephen Albano, Nolan J Brown, Zach Pennington, Andrew Nguyen, Timothy I Hsu, Martin H Pham, Michael Y Oh. Risks Associated with Surgical Management of Lumbosacral Transitional Vertebrae: Systematic Review of Surgical Considerations and Illustrative Case. World Neurosurg, 2024, 186, p.e54-e64.
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