椎間板ヘルニアは、20〜40代の比較的若い世代にも広がりを見せている疾患です。長時間にわたるデスクワークやスマートフォンの過剰使用といった日常的な習慣が、その発症に関与しているとされています。症状が悪化すると、手術を選択せざるを得ない場合もあります。
本記事では、椎間板ヘルニアの主な原因と、日々の生活に取り入れやすい予防策についてご紹介します。普段の姿勢の癖、身体活動の不足、遺伝的な素因など、発症に至る背景には複数の要因が関係していると考えられます。見過ごされやすい初期の兆候についても、確認しましょう。
目次
椎間板ヘルニアを発症する原因
椎間板ヘルニアを発症する原因として、以下の4つを解説します。
- 長時間のデスクワークやスマホ使用
- 運動不足と筋力低下
- 姿勢の悪さ
- 遺伝や体質による影響
長時間のデスクワークやスマホ使用
長時間のデスクワークやスマホの操作は、椎間板ヘルニアを引き起こす要因の一つとされています。作業に集中することで前かがみの姿勢が続き、腰椎や椎間板に負担がかかり、頚椎(けいつい)椎間板ヘルニアのリスクも高まります。同じ姿勢を長時間保つことで、以下の悪影響が生じる可能性があります。
- 筋肉の緊張
- 血行不良
- 椎間板への栄養供給の不足
- 椎間板変性の進行
腰椎や椎間板に負担が蓄積すると、日常生活にも影響を及ぼしかねません。定期的に姿勢を見直し、体を動かす時間を設けることが予防につながります。
運動不足と筋力低下
運動不足による筋力の低下も、椎間板に悪影響を及ぼします。腹筋や背筋などの体幹の筋肉が衰えると、腰椎を安定させる力が弱まり、腰部への負担が増加します。2018年に発表した研究によると、腰椎椎間板ヘルニアの発生率は腰部への負担の程度や年齢、性別などの要因によって異なることが示されています。
若い世代では運動習慣の減少が顕著で、社会人になると学生時代に比べて運動機会が減る傾向があります。運動不足が続くと、椎間板への圧力が日常的にかかりやすくなります。日頃から適度な運動を取り入れ、体幹の筋肉を維持することが予防につながります。
姿勢の悪さ
姿勢が崩れている状態は、腰椎に大きな負担をかける要因となり、椎間板ヘルニアの発症リスクを高める一因となります。猫背や過度な反り腰は、腰椎本来の自然なカーブを乱し、椎間板に加わる圧力が偏ることで、一部の箇所に過剰な負荷がかかりやすくなります。
猫背の場合は、上半身の重さをしっかりと支えきれずに腰部に負担が集中します。反り腰では腰椎が必要以上に反り、椎間板への圧力が増す傾向があるため、注意が求められます。座っている際に骨盤が後ろへ傾いてしまうと、腰椎の適切なカーブが維持されず、椎間板への負担がさらに大きくなります。
椅子に深く腰をかけ、背もたれを活用しながら骨盤をしっかり立てた姿勢を保つことを意識しましょう。さらに、腰を丸めたまま重い物を持ち上げる動作は腰椎への強いストレスとなるため、日常生活の動きにも十分な注意が必要です。
遺伝や体質による影響
椎間板ヘルニアは、遺伝的な要因や体質によって発症リスクが高まるケースもあります。椎間板の構造や強さには個人差があり、先天的に椎間板が脆弱な方や、特定の遺伝子を有する方は、発症しやすい傾向があると考えられています。
遺伝の影響は自身では変えられないものの、それ以外のリスク因子を意識して管理することで、発症リスクの軽減が期待できます。普段の生活においては、姿勢を正しく保つこと、過度な負荷を避けた適度な運動を取り入れること、さらに栄養バランスの良い食生活を心がけることが大切です。
椎間板ヘルニアの初期サイン
椎間板ヘルニアの初期サインは、以下の2つです。
- 朝のこわばりや不快感
- 座っているときの違和感や痛み
朝のこわばりや不快感
朝起きたときに、腰や背中にこわばりや不快感を感じる場合、椎間板ヘルニアの初期症状である可能性があります。寝ている間に椎間板に水分が戻り、動き始めると痛みやこわばりを感じることがあります。症状の特徴は、以下のとおりです。
- ベッドから起き上がるときに腰が重く感じる
- 前かがみになったときに背中に痛みを感じる
- 歩き始めると足にピリピリとした感覚がある
症状が数日以上続く場合は、注意が必要です。朝のこわばりは年齢に関係なく起こり得るため、若い方も普段から気をつけましょう。以下のページでは、急な痛みに対する対処法から、即効性が期待できるケア方法まで詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法と即効性が期待できる対策
座っているときの違和感や痛み
長時間同じ姿勢で座り続けたときに、腰や背中、お尻から足にかけて痛みやしびれを感じる場合は、椎間板ヘルニアの初期症状である可能性があります。症状の特徴は、以下のとおりです。
- 座り始めは無症状で、30分~1時間経過後に痛みが生じる
- 足のしびれやピリピリ感が現れる
- 姿勢を変えると症状が一時的に軽減する
以下の状況で症状が現れやすい傾向があります。
- テスト中に集中して座り続けた後
- ゲームに夢中になり前かがみ姿勢を維持した後
長時間にわたって猫背や前屈みの姿勢で座ることが習慣化している場合、椎間板に過度な負担がかかる可能性があるため、注意が求められます。
以下の記事では、椎間板ヘルニアを悪化させないために避けるべき行動や、痛みを軽減するための正しい姿勢・動作のポイントについて詳しく解説しています。症状が進行する前に、生活習慣を見直すヒントを得られます。
>>椎間板ヘルニアでやってはいけないこと!悪化を防ぐ注意点
椎間板ヘルニアの予防法
椎間板ヘルニアの予防方法は、以下のとおりです。
- 椅子に座るときの姿勢とクッションの使い方を意識する
- スクワットで腰まわりの筋肉を強化する
- 重い荷物を持つときの動きに注意する
椅子に座るときの姿勢とクッションの使い方を意識する
長時間のデスクワークやスマホ操作は、無意識のうちに姿勢が悪化し腰部に負担をかけます。座るときの姿勢のポイントは、以下のとおりです。
- 骨盤を立てて背筋を伸ばす
- あごを軽く引く
- 椅子に深く腰掛け背もたれを利用する
1時間に1回は、以下の行動を取り入れましょう。
- 立ち上がって軽いストレッチ
- トイレ休憩を兼ねた歩行
- 肩回しや背筋の伸展運動
クッションを活用すると、以下の効果が期待できます。
- 背骨の自然なS字カーブを維持
- 体圧分散による腰部負担軽減
- 低反発素材やゲル素材が効果的
クッションを利用している場合でも、素材や姿勢との適合性を定期的に見直すことが重要です。
スクワットで腰まわりの筋肉を強化する
腰まわりの筋肉が弱いと、腰椎への負担が増し、椎間板ヘルニアのリスクを高める可能性があります。腰まわりの筋肉を鍛えるのに、スクワットがおすすめです。スクワットは特別な器具も必要なく、自宅で簡単に行えるので、生活に取り入れやすいトレーニング方法です。スクワットを行う際の正しいフォームは、以下のとおりです。
- 背筋を伸ばし、ゆっくりと腰を落とす
- 膝がつま先よりも前に出ないように注意する
- お尻を突き出すイメージで行う
最初は10回を1セットとして、1日2〜3セット行いましょう。慣れてきたら、回数やセット数を徐々に増やしていくことをおすすめします。
重い荷物を持つときの動きに注意する
重い荷物を持ち上げる際の腰への負担にも注意しましょう。正しい荷物の持ち上げ方の手順は、以下のとおりです。
- 足を肩幅に開き腰を落とす
- 荷物に近づき背筋を伸ばしたまま掴む
- 膝を伸ばしながら足の力で持ち上げる
腰への負担を軽減するためには、荷物は体の中心に近づけて持ち、腰をひねらないようにすることが大切です。急に立ち上がらないことや必要に応じて台車・キャリーバッグを利用することも検討しましょう。
スーパーの買い物袋や子供を抱っこするときも注意が必要です。日常的に正しい持ち上げ方を実践することで、椎間板ヘルニアのリスクを減らす効果が期待できます。
椎間板ヘルニアにおける日常生活の注意点
椎間板ヘルニアにおける日常生活の注意点として、以下の4つを解説します。
- 適度なストレッチとエクササイズ
- 適切な運動とその頻度
- 栄養バランスの良い食事
- 再発予防のための対策
適度なストレッチとエクササイズ
適度なストレッチとエクササイズは椎間板ヘルニアの予防や症状を緩和する効果が期待できます。腰まわりの筋肉を柔軟性を高めることで血行が促進され、筋肉の緊張が緩和されます。おすすめのストレッチ方法は、以下のとおりです。
- 膝抱えストレッチ:仰向けで両膝を抱え込み15~30秒保持する
- 腰ひねりストレッチ:仰向けで膝を左右に倒し各15~30秒実施する
- 猫のポーズ:四つんばいで背中を反らすか丸めるを5~10回繰り返す
1日に数回を目安に実施しましょう。就寝前や起床後など継続しやすい時間帯を選ぶことをおすすめします。痛みを感じたら直ちに中止してください。腰痛体操などのエクササイズも有効です。腹筋や背筋を強化することで腰部のサポート力が向上し、椎間板への負担が軽減し、姿勢の改善にも期待ができます。
適切な方法については整形外科医や理学療法士に相談することをおすすめします。
適切な運動とその頻度
椎間板ヘルニアの予防と再発防止には、ウォーキングや水泳などの適度な運動が推奨されます。運動不足は筋力の低下や血行不良を招きます。椎間板の健康状態に影響を及ぼす可能性もあります。おすすめの運動方法は、ウォーキングと水泳です。
ウォーキングは、特別な器具不要で手軽に実施可能です。1日30分程度、週3~4回を目安にしましょう。公園散歩や通勤時の歩行でも効果が期待できます。水泳は、腰への負担が少なく、水中ウォーキングや背浮きなどが適しています。運動時に注意すべき点は、主に以下の3つです。
- 激しい運動や急な動きは避ける
- 痛みを感じたら直ちに中止する
- 無理をせず徐々に運動量を増やす
運動は椎間板への栄養供給を促進し、筋力維持に役立ちます。痛みがある場合や運動方法に不安がある場合は、医師や理学療法士に相談することをおすすめします。
以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状を軽度・中等度・重度に分けて詳しく解説し、それぞれのレベルに応じた対処法や注意点について紹介しています。症状に合った正しい対応を知るための参考にしてください。
>>腰椎椎間板ヘルニア症状のレベル別特徴と対処法
栄養バランスの良い食事
栄養バランスの良い食事は健康な体の維持に欠かせません。椎間板ヘルニアの予防と改善には、骨や筋肉の健康を保つ栄養素が特に重要です。
カルシウムは、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、小魚、緑黄色野菜などに多く含まれています。ビタミンDは、鮭やさんまなどの魚類、卵、きのこ類に豊富に含まれていて、タンパク質は、肉や魚、卵、大豆製品などに多く含まれています。偏った食事や過度なダイエットは避け、日常的に栄養バランスを考慮した食生活を心がけましょう。
再発予防のための対策
椎間板ヘルニアを発症すると、再発のリスクが高まるため、日常生活で予防策を講じることが重要です。再発予防のために、以下の対策を心がけましょう。
- 正しい姿勢の維持
- 適度な運動の継続
- 体重管理
喫煙は血行不良を引き起こし、椎間板の修復を遅らせるため、禁煙も再発予防において重要です。作業中は正しい姿勢を意識し、1時間に1回は休憩を取りましょう。バランスの良い食事を心がけることや禁煙することも大切です。定期的な医師の診察も重要であり、早期発見・治療によって、重症化を防ぐことができる可能性があります。
まとめ
椎間板ヘルニアの発症リスクを高める要因にはさまざまなものがあります。運動不足や姿勢の乱れ、長時間に及ぶデスクワークやスマホの使用などが挙げられ、若い世代においても注意が必要とされます。予防の観点からは、正しい姿勢を保つことが重要です。
作業を行う際には、背筋をまっすぐに伸ばし、腰にかかる負担をできるだけ軽減することを意識しましょう。また、適度な運動も効果的であり、ストレッチやスクワットなどを取り入れて腰回りの筋肉を鍛えることが大切です。重い物を持ち上げる場合は、腰を折るのではなく膝をしっかり曲げる動作が基本です。
日々の生活の中では、バランスの良い食事を心がけ、禁煙にも取り組むことが推奨されます。自身の生活習慣を見直し、無理のない範囲でできる予防策を少しずつ取り入れていきましょう。
以下の記事では、保存療法の一環として取り入れられるストレッチ方法について、自宅で無理なく実践できるメニューを中心に詳しく解説しています。正しい方法で継続することで、痛みの軽減や再発予防にもつながります。
>>椎間板ヘルニアの改善が期待できるストレッチ!自宅でできる痛み軽減法
参考文献
Kim YK, Kang D, Lee I, Kim SY. Differences in the Incidence of Symptomatic Cervical and Lumbar Disc Herniation According to Age, Sex and National Health Insurance Eligibility: A Pilot Study on the Disease’s Association with Work. International journal of environmental research and public health 15, no. 10 (2018).
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