腰椎椎間板変性症は、加齢に伴って椎間板の弾力が失われることで発症する疾患です。40〜60代に多く見られますが、若年層でもスポーツや長時間の座位姿勢によってリスクが高まる可能性があります。進行すると腰痛や下肢のしびれを引き起こし、日常生活に支障をきたすこともあるため注意が必要です。
椎間板ヘルニアと混同されやすいですが、原因や症状、治療法に明確な違いがあります。この記事では、腰椎椎間板変性症の主な原因や症状、ヘルニアとの違い、具体的な対処法を解説します。早期発見と適切な対処により、悪化を防ぎ生活の質を維持できる可能性があります。腰痛にお悩みの方は、ぜひご一読ください。
腰椎椎間板変性症が進行すると、椎間板ヘルニアへと移行するケースもあります。両者は密接な関係にあり、特に足の付け根などに痛みが出る場合には、腰椎椎間板ヘルニアの可能性も考えられます。以下の記事では、足の付け根の痛みの原因や、考えられる疾患・対処法について詳しく解説しています。症状に心当たりのある方は、あわせてご確認ください。
>>【医師監修】腰椎椎間板ヘルニアによる足の付け根の痛みの原因と対処法
目次
腰椎椎間板変性症とは椎間板の弾力がなくなる状態
腰椎椎間板変性症は、背骨の腰の部分にある椎間板が弾力を失って変形する病気です。椎間板は、背骨を構成する骨(椎体)の間にあるクッションのような組織で、ゼリー状の髄核(ずいかく)と、髄核を包む線維輪から構成されています。若年期の椎間板は水分を多く含み、弾力性に富んでいるのが特徴です。弾力のおかげで、体を前後左右に曲げたりひねったりする動作をスムーズに行えます。
加齢や生活習慣、遺伝などの要因により、椎間板は徐々に水分を失い、弾力も低下していきます。線維輪に亀裂が入り、椎間板が潰れて薄くなったり変形したりすることで、クッション機能が低下し、腰に負担がかかりやすくなります。腰椎椎間板変性症を放置すると、日常生活に支障をきたすだけでなく、椎間板ヘルニアへ進行するリスクも高まります。
腰椎椎間板変性症の3つの原因
腰椎椎間板変性症の主な原因は、以下の3つです。
- 老化
- 女性ホルモンの減少
- 肥満
老化
老化は腰椎椎間板変性症の最も大きな原因の一つです。年齢とともに髄核の水分が減少し、椎間板の厚みと弾力が失われます。クッション機能が低下することで腰への負担が増します。特に40〜60代に多く見られます。椎間板は血流が乏しく、一度損傷すると自然修復が困難です。
加齢による変性は多くの方に見られる老化現象ですが、進行の程度には個人差があります。
女性ホルモンの減少
女性ホルモンの減少も腰椎椎間板変性症の原因の一つです。女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、骨の健康を維持する働きを持ちます。骨を壊す細胞の働きを抑え、骨を作る細胞を助けることで、骨密度を保つことが可能です。閉経を迎えるとエストロゲンの分泌が急減し、骨密度が低下しやすくなります。
骨が弱くなると椎間板への負担が増加し、変形が進行する可能性があり、閉経後の女性は腰椎椎間板変性症を発症しやすくなります。
肥満
肥満も腰椎椎間板変性症のリスク要因です。体重が増加すると腰椎への負担が大きくなり、椎間板にかかる圧力も増加します。圧力の増加によって椎間板の変形や損傷が進みやすくなります。肥満は体内の炎症反応を高める物質の分泌を促進し、腰痛などの症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です。
腰椎椎間板変性症の症状
腰椎椎間板変性症の症状について、以下の内容を解説します。
- 慢性的な腰痛
- 脚やおしりのしびれ
- 脚の可動域制限
慢性的な腰痛
最も多く見られる症状は、慢性的な腰痛です。初期では、鈍い痛みや重だるさ、腰の疲労感から始まるケースが一般的です。病気の進行に伴い、痛みが強まり、日常生活にも支障をきたすようになります。前かがみの姿勢や長時間同じ姿勢を続けると、痛みが悪化しやすい傾向があります。
椎間板の変性によって周囲の靭帯や筋肉に負担がかかり、炎症や神経刺激が起こりやすくなる点も特徴です。痛みの強さには個人差があり、軽度の違和感から強い痛みまでさまざまです。特に朝の起床時や長時間の座位後に痛みやこわばりを感じやすくなります。椎間板に圧力がかかる姿勢が続くことで、負担が集中するためと考えられます。
脚やおしりのしびれ
腰椎椎間板変性症では、脚やおしりにしびれが現れることもあります。変形した椎間板が神経を圧迫し、神経の支配領域にしびれや痛み、感覚の異常が生じるためです。坐骨神経痛が起こると、おしりから太ももの裏やふくらはぎ、足先まで鋭い痛みや電気が走るようなしびれが現れる場合もあります。
大腿神経が圧迫された場合には、太ももの前側にしびれや痛み、感覚の異常が生じることも特徴です。症状は片側の脚にのみ現れる場合もあれば、両脚に現れる場合もあります。神経症状は初期には少ない傾向ですが、病気が進行するにつれて出現しやすくなります。
脚の可動域制限
病状が進むと、脚の可動域が制限されることがあります。腰の痛みやこわばりにより、脚を滑らかに動かすことが難しくなるためです。前かがみや後ろ反り、脚を高く上げたり横に広げたりする動作が困難になります。歩行時につまづいたり脚を引きずったりするようになり、日常動作に大きな支障をきたします。以下の行動が難しくなった場合は注意が必要です。
- 靴下を履く
- 階段を上る
- 椅子から立ち上がる
放置すると、椎間板ヘルニアへの進行リスクもあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。
以下の記事では、歩行困難を伴うような激しい痛みに対する緊急時の対処法や、受診のタイミングなどを詳しく解説しています。症状が急変したときの備えとしても、ぜひ一度ご確認ください。
>>椎間板ヘルニアで激痛が出て歩けないときの緊急対処法
椎間板ヘルニアとの違い
椎間板ヘルニアとの違いについて、以下の内容を解説します。
- 病態の違い
- 症状の違い
- 画像所見の違い
- 治療法の違い
病態の違い
椎間板ヘルニアと腰椎椎間板変性症の最も大きな違いは、病態です。椎間板ヘルニアでは、髄核が線維輪を突き破って飛び出し、神経を圧迫することで激しい痛みやしびれを引き起こします。腰椎椎間板変性症は、加齢や遺伝的要因、生活習慣などによって椎間板全体の水分が減少し、弾力性を失って薄くなったり、変形したりする病気です。
椎間板ヘルニアは髄核の「飛び出し」が原因で、腰椎椎間板変性症は椎間板全体の「変性」が原因です。
症状の違い
症状の違いも、両者を区別するうえで重要なポイントです。椎間板ヘルニアでは、多くの場合、激しい腰痛や脚のしびれ、麻痺などが突然現れます。くしゃみや咳といった急激な腹圧の上昇に伴って痛みが悪化しやすいのが特徴です。腰椎椎間板変性症では、慢性的な腰痛が主な症状であり、徐々に進行していく傾向があります。
脚のしびれや麻痺が現れることもありますが、椎間板ヘルニアと比べると軽度であることが一般的です。
画像所見の違い
画像検査で見られる所見も、両者で異なります。レントゲン検査では両者ともに椎間板の隙間が狭くなっている様子が見られますが、MRI検査により明確な違いが確認できます。椎間板ヘルニアでは、髄核が飛び出している様子が白い塊として映り、神経が圧迫されている様子も可視化されます。
腰椎椎間板変性症では、水分の減少で椎間板が黒く映るのが特徴です。近年の研究では、深層学習を用いた自動診断システムが開発されています。腰椎のMRI画像から椎間板変性の重症度分類や椎間板ヘルニアの有無などを高い精度で自動的に診断できるようになってきています。
治療法の違い
治療法も、それぞれの病態に合わせて選択されます。椎間板ヘルニアの治療は、まずは保存療法が中心です。消炎鎮痛剤や筋弛緩薬などの薬物療法や安静、コルセットの着用などが行われます。症状が改善しない場合や、重度の神経麻痺がある場合には、手術が検討されることもあります。
腰椎椎間板変性症の治療は、基本的には保存療法が中心です。保存療法は、以下の種類があります。
- 薬物療法
- 理学療法
- 装具療法
変性症が進行して椎間板ヘルニアなどを併発した場合には、手術が必要になることもあります。研究によると、L5-S1レベル(腰椎の最下部)での変性疾患に対する手術成績において重要な違いが明らかになっています。最適な手術方法を選ぶ際は、病状や年齢、合併症の有無、骨の状態など、さまざまな要因を総合的に判断することが重要です。
椎間板ヘルニアの方が知らずにやってしまいがちなNG行動として、以下の記事で詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアでやってはいけないこと!悪化を防ぐ注意点
腰椎椎間板変性症の4つの対処ポイント
腰椎椎間板変性症の対処法について、4つのポイントを解説します。
- 重いものを持ち上げない
- 適正体重を維持する
- こまめに立ち上がる
- 早めに医療機関を受診する
重いものを持ち上げない
重い物を持つと腰椎に強い負担がかかり、椎間板の損傷リスクが高まります。10kg以上の荷物は複数回に分けて運ぶ、台車を使うなどの工夫が必要です。荷物を持つ際は膝を曲げて腰を落とし、背筋をまっすぐに保つ姿勢を意識しましょう。小さな子どもを抱き上げるときも同様の動作が推奨されます。
日頃から正しい姿勢を保つことが腰への負担軽減につながります。
適正体重を維持する
体重が増加すると椎間板への圧力が強まり、変性が進行しやすくなります。適正体重を維持することで、腰への負担を軽減し、腰椎椎間板変性症の予防や症状の悪化を防ぐことにつながります。適正体重とは、BMI(ボディマスインデックス)が18.5〜25の範囲内のことです。BMIは、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算できます。
適正体重を維持するためには、バランスの良い食事と適度な運動が不可欠です。食事は、野菜や果物、たんぱく質、炭水化物をバランス良く摂取し、高カロリーな食事は控えましょう。1日3食、規則正しい食生活を心がけることも重要です。運動は、腰に負担の少ない以下の有酸素運動がおすすめです。
- ウォーキング
- 水泳
- 水中ウォーキング
無理のない範囲で継続することが大切です。
こまめに立ち上がる
長時間同じ姿勢でいると筋肉がこわばり、腰痛の悪化を招くことがあります。デスクワークなどでは、30分に1回程度立ち上がり、軽く体を動かす習慣をつけましょう。立ち上がってストレッチなど軽い運動をすることで、腰の筋肉の緊張を和らげ、血行を促進します。
座るときは、足を組まず背筋を伸ばして座り、足の裏をしっかり床につけるようにしましょう。腰の支えとしてクッションを使うと姿勢保持がしやすくなります。
早めに医療機関を受診する
腰椎椎間板変性症は、早期に発見し、適切な治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、日常生活の質を向上させることができます。腰痛や脚のしびれといった症状が続く場合は、自己判断せずに、早めに医療機関を受診しましょう。医療機関では、以下の方法を通して、椎間板の状態を詳しく確認します。
- 問診
- 視診
- 触診
- レントゲン検査
- MRI検査
MRI検査は、椎間板の水分量や変形の程度を正確に評価するために重要です。症状や進行状況に合わせて、医師と相談しながら適切な治療法を選択します。日常生活での注意点や予防策についても、医師や理学療法士から指導を受けることができます。自己判断で治療を中断せず、医師の指示に従い治療を継続しましょう。
まとめ
椎間板の老化は多くの方にみられる自然な変化ですが、日常の姿勢や生活習慣を見直すことで進行を緩やかにすることが期待できます。以下の予防ポイントを意識しましょう。
- 重いものを持ち上げない
- 適正体重を維持する
- こまめに体を動かす
腰痛や脚のしびれなどの症状がある場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診し、専門的な診断とアドバイスを受けることが大切です。腰の健康を守り、快適な生活を維持するためにも、日頃から適切なケアを心がけましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアになりやすい人の傾向や、予防に効果的な対策について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアになりやすい人の特徴と予防に効果的な対策法
参考文献
Aobo Wang, Tianyi Wang, Xingyu Liu, Ning Fan, Shuo Yuan, Peng Du, Congying Zou, Ruiyuan Chen, Yu Xi, Zhao Gu, Hongxing Song, Qi Fei, Yiling Zhang, Lei Zang. Automated diagnosis and grading of lumbar intervertebral disc degeneration based on a modified YOLO framework. Front Bioeng Biotechnol, 2025, 13, -, p.1526478
Alan H Daniels, Mohammad Daher, Joseph E Nassar, Sleiman Haddad, Louis Boissiere, Richard K Hurley, William F Lavelle, Peter G Passias, Bassel G Diebo, Amer Sebaaly. Transforaminal Versus Anterior Lumbar Interbody Fusion at L5-S1 for Degenerative Spine Disease : A Meta-Analysis. Spine (Phila Pa 1976), 2025, 50, 12, p.E231-E239
戻る