腰の痛みやしびれ、もしかして椎間板ヘルニアかも?と不安を抱えている方は多いです。日本国内では、人口10万人あたり年間約50人ほどが椎間板ヘルニアの手術を受けているというデータもあります。手術が必要と言われた場合、どのくらいの費用がかかるのか、保険は適用されるのかなど、さまざまな疑問が湧きます。
この記事では、椎間板ヘルニアの手術に関する費用相場や保険適用の条件、代表的な手術の種類や特徴、リスクや合併症まで、網羅的に解説します。記事を読むことで、手術に臨む際の情報がわかり、より安心感を持って手術を検討できます。
目次
代表的な椎間板ヘルニア手術の種類と特徴
椎間板ヘルニアの手術は、患者さん一人ひとりの症状やヘルニアの状態、そして生活スタイルに合わせて最適な方法を選択することが重要です。代表的な椎間板ヘルニア手術の種類と特徴について、以下の4つを解説します。
- MED(内視鏡下椎間板摘出術)
- FED(全内視鏡下腰椎椎間板摘出術)
- PLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)
- 椎間板内酵素注入療法
MED(内視鏡下椎間板摘出術)
MEDは、約1.5cmの小さな傷口から内視鏡(カメラ)を挿入し、ヘルニアを取り除く手術です。内視鏡を用いることで、患部を直接確認しながら手術を進めることができます。従来の開腹手術と比較すると、傷口が小さいため、手術後の痛みや出血が少なく、入院期間も数日〜1週間程度と短い傾向です。
筋肉を大きく切開したり剥がしたりしないため、身体への負担が少ない手術と言えます。しかし、すべての椎間板ヘルニアに適用できるわけではありません。以下の場合は、他の手術方法が選択されることもあります。
- ヘルニアが大きい場合
- 神経を強く圧迫している場合
- 神経の炎症が強いなどの場合
費用相場は、3割負担で約15〜25万円程度で、別途入院費用がかかります。北米脊椎協会(NASS)のガイドラインでも、手術の選択は患者の症状やヘルニアの状態によって個別化されるべきだと強調されています。
FED(全内視鏡下腰椎椎間板摘出術)
FEDは、MEDよりもさらに進化した内視鏡手術です。特殊な器具を用いることで、より安全かつ精密にヘルニアを取り除くことができます。傷口もMEDよりもさらに小さく、患者さんの負担を最小限に抑えることができます。入院期間はMEDと同様に短く、早期の社会復帰を目指せます。
費用相場は、3割負担で約18〜30万円程度です。具体的な費用や入院期間については医療機関によって異なるため、受診時に確認することをおすすめします。
PLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)
PLDDは、レーザーを使ってヘルニアを小さくする手術です。皮膚に小さな針を刺し、そこからレーザー光線を照射してヘルニアの一部を蒸発させ、神経への圧迫を軽減します。
切開をしないため、傷口がほとんど残らず、手術時間も短いです。日帰り手術も可能な場合があり、身体への負担が少ない治療法です。ただし、ヘルニアの状態によっては適応とならない場合もあります。
ヘルニアが大きく脱出している場合や、神経への圧迫が強い場合は、PLDDでは十分な効果が得られない可能性があります。費用相場は、保険適用外のため全額自己負担となり、20〜50万円程度です。
椎間板内酵素注入療法
椎間板内酵素注入療法は、ヘルニアの原因となっている椎間板内の髄核を、酵素を注入することで溶かして小さくする治療法です。切開を必要とせず、局所麻酔で施術が可能です。入院期間も短く、身体への負担が少ない治療法として注目されています。
一度でも椎間板内酵素注入療法を行うと、同じ部位に他の手術を行うことが難しくなる可能性があるため、慎重に検討する必要があります。効果には個人差があり、すべての方に有効とは限りません。費用相場は、3割負担で5〜7万円程度です。
医師とよく相談し、ご自身の症状やライフスタイル、そして将来的な治療の可能性なども考慮しながら、最適な治療法を選択することが大切です。
近年では、保存療法や手術に加え、再生医療などの新たな治療法も登場し、椎間板ヘルニアの「治らない」というイメージが変わりつつあります。以下の記事では、最新の治療法や回復の可能性について詳しく解説していますので、今後の治療選択の参考にしてみてください。
>>椎間板ヘルニアは一生治らない?最新治療と回復の可能性
椎間板ヘルニアの手術費用と保険適用
椎間板ヘルニアの手術費用と保険適用について、以下の6つを解説します。
- 手術費用の内訳
- 保険適用の条件
- 保険適用の際の注意点
- 高額療養費制度の利用
- 民間医療保険の適用範囲
- 医療費控除・限度額適用認定証などの活用方法
手術費用の内訳
椎間板ヘルニアの手術費用は、大きく分けて以下の4つです。
- 手術費用:手術の種類や難易度、使用する医療機器や技術で大きく変動する
- 麻酔費用:全身麻酔か局所麻酔か、麻酔の時間で費用が変動する
- 材料費:医療材料をどのくらい使用するかで変動する
- 入院費用:入院費用は入院日数や病室の種類(個室か大部屋か)で変動する
4種類の費用を合計したものが、手術にかかる総費用です。手術を受ける前に、それぞれの費用について医療機関に確認し、費用の内訳をしっかりと把握しておくことが重要です。
保険適用の条件
保険適用されるための条件としては、医師の診断にもとづき、医学的に必要と認められる手術を受けることが必要です。保存療法で症状が改善しない、日常生活に支障をきたす痛みやしびれがある、排尿・排便障害がある場合に、手術が適応されます。
椎間板ヘルニアの手術は、ほとんどの場合、健康保険が適用されます。健康保険が適用されると、患者さんの自己負担額は医療費全体の3割(70歳以上の方など一部の方は1割または2割)になります。
保険適用される手術の種類は、一般的に認められている標準的な治療法に限られます。新しい治療法や先進医療などは、保険適用外となる場合があるので注意が必要です。
保険適用の際の注意点
保険適用される場合でも、一部自己負担となる費用があります。差額ベッド代(個室を利用する場合の追加料金)や食事代などは、保険適用外となることが多いです。先進医療を選択した場合、保険適用外となるため、全額自己負担となる可能性があります。
手術を受ける前に、どの費用が保険適用で、どの費用が自己負担になるのか、医療機関によく確認しておきましょう。費用の内訳を明確にすることで、安心して手術に臨むことができます。
高額療養費制度の利用
手術費用が高額になった場合、高額療養費制度を利用することで、自己負担額を抑えることができます。高額療養費制度は、1か月にかかった医療費の自己負担額が、一定の金額を超えた場合に、超えた分が支給される制度です。所得に応じて自己負担限度額が設定されており、申請手続きを行うことで、超過分が払い戻されます。
高額療養費制度は、高額な医療費の負担を軽減するための重要なセーフティネットです。手術前に制度の内容を確認し、必要に応じて利用手続きを行いましょう。
民間医療保険の適用範囲
適用範囲や給付額は、加入している保険の種類や契約内容によって異なります。民間の医療保険に加入している場合、手術費用の一部または全部が給付金として支払われる場合があります。手術を受ける前に、保険会社に問い合わせて、保障内容を確認しておくことをおすすめします。
医療費控除・限度額適用認定証などの活用方法
医療費控除は、1年間で支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告を行うことで、税金の一部が還付される制度です。手術費用も医療費控除の対象となります。限度額適用認定証を取得することで、医療機関の窓口で支払う医療費の自己負担額を高額療養費制度の自己負担限度額までに抑えることができます。
制度を活用することで、医療費の負担を軽減することが可能です。
椎間板ヘルニアの手術のリスクと合併症
椎間板ヘルニアの手術のリスクと合併症について、以下の4つを解説します。
- 手術、合併症のリスク
- 手術後の痛みやしびれ
- 感染症のリスク
- 神経損傷の可能性
- 再発の可能性
手術、合併症のリスク
椎間板ヘルニアの手術には、手術特有のリスクが存在します。硬膜損傷や神経機能の悪化、くも膜炎などの合併症が挙げられます。
硬膜は、脳や脊髄を覆う3層の膜のうち、一番外側にある丈夫な膜です。硬膜が損傷すると、脳脊髄液が漏れ出てしまう可能性があります。脳脊髄液は、脳や脊髄を保護するクッションの役割を果たしているため、漏れ出てしまうと感染症のリスクが高まります。
神経機能の悪化は、手術操作中に神経を傷つけてしまうことで起こります。麻痺やしびれ、痛みが悪化してしまう可能性があり、深刻なケースでは後遺症が残ってしまうこともあります。
くも膜炎は、くも膜に炎症が起こることで、発熱や頭痛、嘔吐などの症状が現れます。手術部位の感染によって引き起こされる場合があり、抗生物質による治療が必要になります。
手術のリスクは、手術を行う医師の技術や経験、患者さん自身の状態によって大きく左右されます。信頼できる医師に相談し、メリットとデメリットを十分に理解したうえで、手術を受けるかどうか慎重に判断することが重要です。
手術後の痛みやしびれ
手術後には、傷口の痛みや手術部位周辺のしびれが出ることがあります。手術による組織のダメージや炎症によって引き起こされる症状で、多くの場合、時間の経過とともに軽減していきます。痛みやしびれの程度は、手術の方法や患者さんの体質によって異なります。
MED法(内視鏡下椎間板摘出術)などの低侵襲手術では、従来の手術に比べて術後の痛みやしびれが少ない傾向にあります。日常生活に支障が出るほどの痛みやしびれが続く場合は、我慢せずに医師に相談しましょう。
感染症のリスク
どんな手術にも感染症のリスクはあります。椎間板ヘルニアの手術も例外ではなく、手術部位の感染症が起こる可能性があります。感染症は、手術中の滅菌操作が不十分な場合や、患者さんの免疫力が低下している場合に起こりやすくなります。
感染症を防ぐためには、衛生管理体制が整った医療機関を選ぶことが重要です。手術後は医師の指示に従って傷口の手当てを適切に行い、清潔を保つように心がけましょう。発熱や傷口の腫れ、痛み、膿などの症状が現れた場合は、すぐに医師へ連絡してください。
神経損傷の可能性
椎間板ヘルニアの手術では、神経を傷つけてしまうリスクが常に存在します。神経が損傷すると、麻痺やしびれ、痛みなどの神経症状が現れ、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。神経損傷のリスクは、ヘルニアの状態や手術の方法によって異なります。
顕微鏡や内視鏡を用いた手術では、神経を直接確認しながら手術を行うことができるため、神経損傷のリスクを低減できます。それでも完全にリスクをゼロにすることはできません。手術を受ける前に、医師から神経損傷のリスクについて十分な説明を受け、納得したうえで手術を受けるようにしましょう。
再発の可能性
椎間板ヘルニアの手術後、再びヘルニアが再発する可能性もゼロではありません。手術を受けた部位とは異なる部位にヘルニアが発生するケースが多いです。北米脊椎協会(NASS)のガイドラインでも、手術後の再発リスクについて言及されており、術後の適切なケアと生活習慣の改善が重要であるとされています。
再発のリスクを減らすためには、手術後のリハビリテーションをきちんと行い、腰への負担を軽減することが重要です。正しい姿勢を保つ、重いものを持ち上げない、適度な運動をするなど、日常生活での注意点を守り、再発を予防しましょう。
腰に負担をかけにくい姿勢の取り方やストレッチの方法を知っておくことは、痛みの緩和や再発予防に役立ちます。以下の記事では、椎間板ヘルニアの痛みを軽減するための正しい姿勢や、自宅でできる効果的なストレッチ方法を詳しく紹介しています。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる姿勢と効果が期待できるストレッチ法を紹介
まとめ
椎間板ヘルニアの手術費用は、手術方法や入院期間、保険適用の有無などによって大きく異なります。MEDやFEDといった低侵襲手術は入院期間が短く、身体への負担も少ないですが、費用は高額になる傾向があります。
PLDDはさらに高額ですが、日帰り手術も可能な場合があります。椎間板内酵素注入療法は比較的安価ですが、他の手術への影響を考慮する必要があります。どの手術にもメリット・デメリットがあり、費用も大きく変わるため、医師とよく相談し、ご自身の状況に合った手術方法を選ぶことが大切です。
健康保険や高額療養費制度の活用、民間の医療保険なども検討し、経済的な負担を軽減する方法も確認しておきましょう。
手術だけでなく、日常生活での工夫やセルフケアによって回復を早めることも可能です。以下の記事では、椎間板ヘルニアの回復を促すために意識すべき生活習慣や、早期改善につながるポイントを詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアを早く治す方法!回復を促進する生活習慣
参考文献
D Scott Kreiner, Steven W Hwang, John E Easa, Daniel K Resnick, Jamie L Baisden, Shay Bess, Charles H Cho, Michael J DePalma, Paul Dougherty 2nd, Robert Fernand, Gary Ghiselli, Amgad S Hanna, Tim Lamer, Anthony J Lisi, Daniel J Mazanec, Richard J Meagher, Robert C Nucci, Rakesh D Patel, Jonathan N Sembrano, Anil K Sharma, Jeffrey T Summers, Christopher K Taleghani, William L Tontz Jr, John F Toton.An evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of lumbar disc herniation with radiculopathy.Spine J,2014,14,1,p.180-191
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