胸椎椎間板ヘルニアの初期症状|受診の目安やセルフケアの方法

胸椎椎間板ヘルニアの初期症状|受診の目安やセルフケアの方法
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背中や胸に鈍痛や鋭い痛み、締め付けられるような違和感、あるいは帯状疱疹(たいじょうほうしん)のような痛みを感じた経験はありませんか?背部や胸部に現れる痛みや違和感は、胸椎椎間板ヘルニアの初期症状である可能性があります。

胸椎椎間板ヘルニアは発症頻度こそ低いものの、放置すると神経を圧迫し、しびれや呼吸時の痛みなど深刻な障害を引き起こすおそれがあります。デスクワーク中心の生活や加齢により、30〜50代は特に注意が必要です。

この記事では、胸椎椎間板ヘルニアに見られる初期症状の5つのサインや医療機関を受診する目安、セルフケアの方法について解説します。早期に気づき、適切に対応することで、症状の悪化を防ぎ、快適な日常生活を維持できる可能性があります。あなたの健康を守るために、正しい知識を身につけましょう。

椎間板ヘルニアは発生する部位によって症状が異なります。腰椎・胸椎・頚椎といった部位ごとの症状や対処法を理解することも、より適切な判断につながります。以下の記事では、椎間板ヘルニアの場所別の症状の違いや、それに応じた治療選択の考え方について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの場所による症状の違いと適切な治療選択の方法

胸椎椎間板ヘルニアの初期症状5つのサイン

胸椎椎間板ヘルニアに見られる代表的な初期症状のサインについて、以下の5つを解説します。

  • 背中や胸の痛み
  • 帯状疱疹のような胸の痛み
  • 胸部や肋骨周囲の違和感
  • 腕や手のしびれ
  • 深呼吸時の痛み

背中や胸の痛み

胸椎椎間板ヘルニアで最も多く見られる初期症状は、背中や胸の痛みです。痛みの種類には個人差があり、鈍く重い痛みや鋭い痛みが現れます。体を動かしたときに痛みが増強する場合や、咳やくしゃみによって痛みが悪化する場合もあります。

痛みは、椎間板の髄核が飛び出し、神経根(脊髄から枝分かれして手足や内臓につながる重要な神経の束で、感覚や運動を司る)を圧迫することで発生すると考えられています。健康な椎間板は脊椎の間でクッションの役割を果たし、衝撃を吸収しています。

加齢や負担の蓄積で椎間板が変性し、髄核が外に飛び出すと神経が圧迫され、痛みの原因となります。

帯状疱疹のような胸の痛み

胸椎椎間板ヘルニアの痛みは、帯状疱疹のように胸の片側だけに現れることがあります。帯状疱疹は、ウイルスが原因で体の片側にピリピリとした痛みや水ぶくれができる病気です。胸椎椎間板ヘルニアの痛みも、神経根が圧迫される部位によって片側だけに現れることがあります。

神経は左右対称に分布していますが、ヘルニアは多くの場合、左右どちらか一方に発生します。ヘルニアによる神経圧迫も片側だけに起こりやすく、結果として痛みが片側に限定されます。

胸部や肋骨周囲の違和感

胸椎椎間板ヘルニアでは、胸や肋骨の周りに「締め付けられるような感じ」や「圧迫感」を感じることもあります。ヘルニアによって神経が刺激されることで起こると考えられています。神経は通常、痛みなどの感覚だけでなく、さまざまな情報を脳に伝えています。

ヘルニアによって神経が刺激されると、情報伝達が乱れ、違和感として認識される場合があります。

腕や手のしびれ

腕や手のしびれも胸椎椎間板ヘルニアの初期症状として現れることがあります。しびれは片側、または両側に出現します。神経の圧迫位置や圧迫の強さによって、しびれの範囲や程度が異なります。胸椎から分岐する神経は腕や手にまでつながっており、神経経路が圧迫されることでしびれが発生します。

深呼吸時の痛み

深呼吸時の胸の痛みは、肋間神経痛との鑑別が必要です。肋間神経痛は、肋骨の間を通る神経に沿って痛みが出る病気です。胸椎椎間板ヘルニアでも神経の刺激により、深呼吸時に同様の痛みが現れることがあります。肋間神経痛と胸椎椎間板ヘルニアは症状が似ているため、鑑別が難しい場合があります。

診断には、症状や病歴、身体診察、画像検査などを総合的に評価することが求められます。

胸椎椎間板ヘルニアの受診の目安

胸椎椎間板ヘルニアの受診の目安は、以下のとおりです。

  • 痛みが強い
  • しびれが続く
  • 日常生活に支障が出る場合はすぐに受診する

痛みが強い

痛みは、体からの重要なサインです。「少し痛いだけ」と考えて放置すると、後に深刻な問題につながる可能性があります。鈍痛や鋭い痛み、動作に伴う痛みなど、痛みの種類にも注意が必要です。急激に痛みが強くなった場合は、症状の悪化が疑われるため、すぐに受診が必要です。

しびれが続く

しびれは、神経が圧迫されているサインです。初期は軽いしびれでも、放置するとしびれの範囲が広がったり、感覚が鈍くなったりする可能性があります。指先や足先といった末梢神経にまでしびれが広がっている場合は、神経の圧迫が進行している可能性が高いため、迅速な対応が必要です。

しびれと同時に、力が入りにくくなる、感覚が鈍くなるといった症状が現れる場合も、神経の損傷が疑われます。「そのうち治るだろう」と自己判断せず、医療機関で適切な検査を受けることが重要です。

日常生活に支障が出る場合はすぐに受診する

胸椎椎間板ヘルニアの症状により、日常生活に支障が出ている場合は早急な受診が必要です。具体的には、以下のような症状が挙げられます。

  • 衣服の着脱が難しい
  • 洗髪や歯磨きが難しい
  • 入浴が困難である
  • 料理や掃除などの家事ができない
  • 仕事や学業に集中できない
  • 歩行が困難である
  • 排尿や排便に障害がある

日常生活に支障が出る場合は、胸椎椎間板ヘルニアが進行している可能性があります。排尿や排便の障害は、脊髄が強く圧迫されている可能性があり、緊急の対応が求められる場合もあります。医療機関では、MRI検査によって椎間板の突出の程度を確認したり、下肢伸展挙上試験で坐骨神経痛の有無を確認したりします。

一般的な治療法として、以下の保存療法があります。

  • コルセット着用
  • 消炎鎮痛剤の服用
  • 牽引療法
  • 運動療法

保存療法で症状が改善しない場合は、手術療法や再生医療などの先進的な治療も検討されます。手術には、内視鏡を用いた低侵襲手術や側方アプローチによる脊柱固定術、経皮的スクリュー挿入法(PPS)を併用した脊柱固定術など、さまざまな方法があります。胸椎椎間板ヘルニアは、適切な治療によって症状の改善が期待できます。

日常生活に支障が出る前に医療機関を受診し、専門医の適切なアドバイスを受けるようにしましょう。近年の研究によると、外科的治療を受けた患者では再入院率が低下することが報告されており、適切な治療法の選択が長期的な予後改善につながる可能性が示されています。

胸椎椎間板ヘルニアのセルフケア

胸椎椎間板ヘルニアのセルフケアについて、以下の内容を解説します。

  • 安静と姿勢の改善
  • 肩甲骨や胸椎のストレッチ
  • 温熱療法
  • 市販薬(痛み止めや湿布薬)の使用

安静と姿勢の改善

症状が悪化している急性期には、まず安静を保つことが大切です。安静とは、横になるだけでなく、患部に負担をかけない姿勢を保つことも含まれます。椅子に座る際は、背もたれに体を預けて腰を支え、立っているときは左右均等に体重をかけ、背筋を伸ばしましょう。

同じ姿勢を長時間続けることは避け、1時間ごとに軽く体を動かすように心がけましょう。デスクワークでは、モニターの高さを目の位置に合わせ、キーボードとマウスは体に近づけて配置しましょう。猫背を防ぎ、胸椎への負担を軽減できます。

>>椎間板ヘルニアの安静期間と回復に必要な生活習慣の見直し

肩甲骨や胸椎のストレッチ

痛みが軽減してきたら、肩甲骨を動かすストレッチや胸椎の可動域を広げるストレッチを取り入れましょう。ストレッチは、筋肉の緊張を和らげ、血行を促進することで、胸椎椎間板ヘルニアの症状改善に効果が期待できます。

肩甲骨を動かすストレッチとしては、両腕を前に伸ばし、肩甲骨を寄せたり、開いたりといった動きを繰り返す方法や、両腕を上に挙げ、肩甲骨を意識して上下に動かす方法などがあります。胸椎の可動域を広げるには、椅子に座って背筋を伸ばし、上半身をゆっくり左右にひねります。

痛みを感じない範囲で行い、無理をしないことが重要です。痛みが出る場合は中止しましょう。

温熱療法

温熱療法は、患部を温めることで血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。温熱療法には、以下の方法があります。

  • ホットタオル
  • 温湿布
  • 入浴

ホットタオルや温湿布を使用する場合は、やけどに注意し、心地良いと感じる温度で15~20分程度温めましょう。入浴は、全身を温めることができるため、血行促進効果が高く、リラックス効果も期待できます。38~40℃程度のぬるめのお湯に15~20分程度つかり、体を温めましょう。

市販薬(痛み止めや湿布薬)の使用

市販の痛み止め薬や湿布薬も、胸椎椎間板ヘルニアの痛みを一時的に和らげるのに役立ちます。痛み止め薬には、以下の2種類があります。

  • 内服薬:胃腸への負担が少ないアセトアミノフェンなど
  • 外用薬:患部に直接塗布または貼付

湿布薬には冷湿布と温湿布があります。急性期の強い痛みには冷湿布を、慢性期には温湿布を選びましょう。症状に応じて適切なタイプを使い分けることが重要です。市販薬を使用する際は、用法や用量を守り、他の薬剤との相互作用にも注意しましょう。

セルフケアは症状の軽減をサポートする補助的手段です。症状が改善しない、または悪化する場合は、速やかに医療機関を受診し、専門医の指導のもとで治療を受けましょう。自己判断は避け、医師の助言をもとに対処することが大切です。

以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状を悪化させないために、日常生活で注意すべき動作や習慣について詳しく解説しています。知らずにやってしまいがちなNG行動をチェックして、悪化を防ぎましょう。
>>椎間板ヘルニアでやってはいけないこと!悪化を防ぐ注意点

まとめ

背中や胸の痛みやしびれ、違和感がある場合は、胸椎椎間板ヘルニアの可能性があります。気になる症状があるときは、我慢せず早めに医療機関を受診することが重要です。特に日常生活に支障が出るほどの痛みやしびれがある場合は、速やかな受診が必要です。

早期発見と早期治療により、症状の悪化を防ぎ、快適な生活を取り戻せる可能性があります。体の変化を見逃すことなく、早めの対応を心がけましょう。

以下の記事では、「椎間板ヘルニアは一生治らないのか?」という不安に対して、最新の治療法や回復の可能性について詳しく解説しています。将来への見通しを知りたい方は、ぜひご覧ください。
>>椎間板ヘルニアは一生治らない?最新治療と回復の可能性

参考文献

Julius Gerstmeyer, August Avantaggio, Anna Gorbacheva, Clifford Pierre, Giorgio Cracchiolo, Neel Patel, Donald D Davis, Bryan Anderson, Periklis Godolias, Thomas A Schildhauer, Amir Abdul-Jabbar, Rod J Oskouian, Jens R Chapman. Incidence and predictors of readmission following hospitalization for thoracic disc herniation. Clin Neurol Neurosurg, 2025, 249, -, p.108698

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