椎間板ヘルニアは、放置すると日常生活に支障をきたす可能性があるため、早期の理解と対応が欠かせません。背骨のクッションの役割を果たす椎間板の一部が外に飛び出し、神経を圧迫することで発症します。結果、腰の痛みに加えて、お尻や脚にしびれ、違和感、時には麻痺のような症状が広がることもあります。
デスクワークで長時間座っている人や、重い物を扱う職業に従事している30~50代の男性に多く見られます。姿勢の悪さや運動不足など、日常の習慣も発症リスクを高める要因となるため、症状が軽いうちから対策することが大切です。
違和感を放置すると症状が進行することもあるため、早めの受診が重要です。この記事では、腰椎椎間板ヘルニアの初期症状と病院に行くべきタイミングを解説します。腰椎椎間板ヘルニアの放置は、日常生活に支障をきたす場合もあるため、早期発見・早期治療が重要です。ご自身の症状と照らし合わせ、早期発見・早期治療のヒントを見つけましょう。
以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアによって足の付け根に痛みが生じる原因や、具体的な対処法について詳しく解説しています。似たような症状が気になる方は、ぜひ参考にしてみてください。
>>【医師監修】腰椎椎間板ヘルニアによる足の付け根の痛みの原因と対処法
目次
腰椎椎間板ヘルニアの初期症状
腰椎椎間板ヘルニアの初期症状は以下のとおりです。
- 腰の痛み:前かがみで悪化しやすい
- 脚の痛みやしびれ:片側または両側に生じる
- 脚の感覚異常:麻痺や冷感がある
- 間欠性跛行:歩行時の痛みやしびれがある
腰の痛み:前かがみで悪化しやすい
腰椎椎間板ヘルニアの初期症状で最も多く見られるのが腰の痛みです。前かがみになったときや重い物を持ち上げたときなどに悪化しやすい傾向があります。痛みの程度は、軽い違和感から激しい痛みまで、人によってさまざまです。
常に痛みがある場合もあれば、時々痛む場合もあります。椅子に長時間座っていたり、立っていたりするだけでも腰が痛くなる場合もあります。さらに、くしゃみや咳など、お腹に力が入る動作でも痛みが強まりやすいため注意が必要です。
脚の痛みやしびれ:片側または両側に生じる
腰椎椎間板ヘルニアでは、腰の痛みに加えて、脚に痛みやしびれが出ることも多く、初期症状としてよく見られます。痛みやしびれの強さや感じ方には個人差があり、鈍く重い痛みから鋭く刺すような痛み、ピリピリ・ジンジンするようなしびれまで、さまざまです。
症状が一方の脚だけに出るケースもあれば、両脚に広がることもあります。症状の範囲や程度は、神経の圧迫位置やその強さによって異なるため、自己判断せずに医師の診断を受けることが大切です。
脚の感覚異常:麻痺や冷感がある
腰椎椎間板ヘルニアが進行すると、脚の感覚に異常が生じる場合があります。具体的には、麻痺や冷感、ジンジンするような感覚、ピリピリするような感覚などです。麻痺の程度はさまざまで、軽いしびれのような感覚から、完全に感覚がなくなるまで、幅があります。
冷感も同様に、冷たく感じる程度から氷のように感じるまで、さまざまな程度があります。麻痺や冷感の症状は、神経圧迫によって血流が悪くなり、神経への酸素供給が不足することが原因です。
間欠性跛行:歩行時の痛みやしびれがある
間欠性跛行(かんけつせいはこう)は、歩行中に脚のしびれや痛みが強くなり、一時的に休むと再び歩けるようになるという特徴的な症状があります。神経の圧迫によって血流が低下し、脚の筋肉へ十分な酸素や栄養が行き渡らなくなることで起こります。
結果として、歩行を続けることが難しくなり、一定距離ごとに立ち止まらざるを得ない状況が生じます。間欠性跛行は、動脈硬化による下肢の血流障害など、他の病気でも見られる症状です。歩行時に脚の痛みやしびれ、脱力感などの症状が繰り返し現れる場合は、自己判断せずに早めに整形外科や循環器内科など、専門の医療機関で適切な検査を受けましょう。
椎間板ヘルニアの放置が危険な理由
椎間板ヘルニアの放置が危険な理由は以下のとおりです。
- 神経の損傷が進む可能性がある
- 回復までの時間が長引くおそれ
神経の損傷が進む可能性がある
椎間板ヘルニアを放置すると、神経への圧迫がさらに強くなり、神経が損傷しやすくなります。神経は、身体を動かす電気信号を送っています。神経が圧迫されると、信号がうまく伝わらなくなり、さまざまな症状が現れるため注意が必要です。初期段階では軽い痛みやしびれでも、放置することで深刻な神経障害に発展する可能性があります。
足にしびれがある場合、最初はつま先だけにしびれを感じたとしても、次第に脚全体へと広がっていく可能性があります。最初は感覚の鈍さだけだったのが、徐々に力が入らなくなり、最終的には歩行困難になるケースも考えられます。
Manchikantiらの研究では、慢性腰痛患者に対する経皮癒着剥離術の有効性が示されています。経皮癒着剥離術は、神経への圧迫を取り除くことで症状を改善する治療法の一つであり、神経への圧迫軽減が何よりも大切になります。
回復までの時間が長引くおそれ
腰椎椎間板ヘルニアの初期症状は軽度である場合が多いですが、放置すると症状が悪化し、回復までの時間が長引くおそれがあります。初期段階では、保存療法で症状が改善する可能性が高いですが、症状が進行すると、手術が必要なケースもあるため、早期治療が欠かせません。
腰椎椎間板ヘルニアは、適切な治療を受ければ多くの場合改善する疾患です。しかし、放置することで回復が遅れ、治療期間が長引き、日常生活への影響も大きくなってしまいます。早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることで、痛みや不快感を軽減し、より早く社会復帰できる可能性が高まります。
手術を検討する際に気になるのが費用や保険適用の可否です。以下の記事では、椎間板ヘルニア手術の費用相場や保険が適用される条件について、分かりやすく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの手術の費用相場と保険適用の条件を詳しく解説
椎間板ヘルニアになりやすい人の特徴
椎間板ヘルニアになりやすい人の特徴は以下のとおりです。
- 椎間板に負担がかかりやすい生活習慣や体質
- 好発年齢と性別の傾向(30~50代男性が多い)
椎間板に負担がかかりやすい生活習慣や体質
椎間板ヘルニアの予防や再発防止のためには、日常生活に潜む「椎間板に負担をかけやすい要因」を理解することが重要です。生活習慣や体質、加齢などの影響を受けます。加齢による変化は誰にでも起こる自然な現象で、椎間板の水分量が減少し、弾力性が失われることで損傷しやすくなります。
年齢を重ねるごとに、クッションのような役割を果たす椎間板がもろくなり、わずかな負担でも傷つきやすくなるのです。遺伝的な体質も見逃せません。家族に椎間板ヘルニアの既往がある場合は、遺伝的に椎間板が弱い傾向があるとされており、同じような症状を発症しやすいといわれています。姿勢の悪さや長時間の同一姿勢も大きなリスク要因です。
猫背や反り腰といった姿勢は、腰椎へのストレスを増加させ、椎間板への負担を慢性的に高めます。特にデスクワークやスマートフォンの長時間使用など、現代の生活習慣は知らず知らずのうちに腰への負担を増大させがちです。運動習慣にも注意が必要です。
身体を動かすことは良いことですが、間違ったフォームや無理な負荷をかける運動、特に重量挙げや高負荷トレーニングなどは、かえって椎間板を痛める原因となります。喫煙と肥満も椎間板に悪影響を及ぼします。喫煙は血管を収縮させ、椎間板への血流を阻害することで、組織の修復機能を低下させます。
結果、ヘルニアの発症や悪化を招きやすくなります。一方、肥満は腰への負担を増やし、椎間板への圧力を常に高める状態を作り出します。椎間板に過度な負担をかける要因は、加齢や体質だけでなく、日々の生活習慣にも深く関わっています。できることから見直し、腰への負担を減らすことで、ヘルニアのリスクを軽減することができます。
好発年齢と性別の傾向(30~50代男性が多い)
腰椎椎間板ヘルニアは、30〜50代の男性に多く発症する疾患です。Choiらの研究では、腰部神経根痛に対する治療法の電圧の違いによる効果を比較検討しています。30〜50代の男性は、仕事で重い物を持ち上げたり、長時間同じ姿勢で作業したりする機会が多く、腰への負担が大きいという報告もあります。
女性に比べて男性のほうが発症率が高い理由は、男性ホルモンの影響や、筋肉量の違いなどです。男性ホルモンは、椎間板の変性を促進する可能性があると考えられています。規則正しい生活習慣を維持し、適度な運動を行い、禁煙に努めることで、ヘルニアのリスクを軽減できます。
病院に行くべきタイミングと判断基準
病院に行くべきタイミングと判断基準は以下のとおりです。
- 痛みが1週間以上続く
- 日常生活に支障が出るほどの痛みやしびれ
- 脚に力が入らず麻痺がある
- 排尿、排便に障害がある
- 安静にしていても痛みが改善しない
痛みが1週間以上続く
痛みが1週間以上続く場合は、腰椎椎間板ヘルニアの可能性も考慮する必要がありますので、医療機関で適切な診断を受けましょう。
医師による診察と画像検査(レントゲン、MRIなど)によって、痛みの原因を特定し、適切な治療方針を立てられます。
日常生活の中でどのような習慣を心がけるかによって、回復スピードにも差が出ることがあります。以下の記事では、椎間板ヘルニアの回復を促すために取り入れたい生活習慣やセルフケアのポイントについて詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアを早く治す方法!回復を促進する生活習慣
日常生活に支障が出るほどの痛みやしびれ
腰椎椎間板ヘルニアの症状は、腰痛をはじめ、お尻や脚の痛みやしびれ、感覚異常など多岐にわたります。痛みやしびれなどの症状が日常生活に支障をきたすほど強い場合は、速やかに病院を受診しましょう。以下の症状に当てはまる場合は、医療機関への受診が推奨されます。
- 靴下を履くときに痛みが生じる
- 椅子から立ち上がるのがつらい
- 痛みで階段が上れない
- 痛みで夜も眠れない
- 仕事や家事に集中できない
脚に力が入らず麻痺がある
腰椎椎間板ヘルニアが進行し、神経への圧迫が強まると、足に力が入りづらくなったり、動かしにくくなったりといった麻痺症状が現れることがあります。神経障害は、状態が悪化しているサインであり、早急な医療機関での診断・対応が必要です。麻痺の症状は個人差があり、軽度のしびれにとどまる場合もあれば、感覚が鈍くなる、あるいは完全に失われるケースも見られます。
症状の出方もさまざまで、つま先だけに違和感が出る場合もあれば、脚全体にしびれや脱力感が広がることもあります。このような異常を感じたときには、自己判断せず、できるだけ早めに専門医を受診することが大切です。
排尿、排便に障害がある
腰椎椎間板ヘルニアが進行すると、排尿や排便に障害が生じることがあります。馬尾神経と呼ばれる神経の束が圧迫されることで生じます。尿が出にくい、尿が漏れる、便秘、便失禁といった症状が現れたら、重症化している可能性が高いため、緊急の医療介入が必要です。
排尿や排便に支障が出る場合、放置してしまうと日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、神経の損傷が進行し、後遺症として機能が回復しにくくなる恐れもあります。こうした症状が見られた場合は、できるだけ早く医療機関を受診し、正確な診断と適切な治療を受けることが重要です。
安静にしていても痛みが改善しない
多くの腰痛は、安静にすることで痛みが軽減しますが、神経が継続的に圧迫される腰椎椎間板ヘルニアの場合は、改善しないケースもあります。痛みが長期間消えない場合は、医療機関を受診し、専門医の診断を受けましょう。
痛みの程度や種類、持続時間などを医師に伝えることで、適切な治療法を選択できます。何か気になる症状がある場合は、医療機関を受診して専門家の意見を聞くことをおすすめします。
まとめ
腰椎椎間板ヘルニアは、初期段階で腰の痛みだけでなく、脚のしびれや痛み、感覚の違和感、さらには間欠性跛行(歩行中に痛みやしびれで立ち止まってしまう症状)など、さまざまな神経症状を伴うことがあります。症状が進行すると、排尿や排便のコントロールにも異常をきたします。
こうした症状を放置してしまうと、神経の損傷が進み、治療による回復にも時間がかかる可能性があります。そのため、早期の発見と迅速な治療開始が重要です。以下の場合は迷わずに医療機関を受診してください。
- 腰痛が1週間以上続く
- 歩行が難しい
- 脚に力が入りにくい
- 麻痺がある
排尿・排便の異常がある場合は緊急性が高いため、早急な対応が求められます。少しでも気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医に相談することが大切です。早めの対応が、症状の悪化を防ぎ、早期回復につながります。
症状の重さに応じた対応を知っておくことも大切です。以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状をレベル別に整理し、それぞれに適した対処法について詳しく解説しています。
>>腰椎椎間板ヘルニア症状のレベル別特徴と対処法
参考文献
Laxmaiah Manchikanti, Nebojsa Nick Knezevic, Emilija Knezevic, Rachana Pasupuleti, Alan D Kaye, Mahendra R Sanapati, Joshua A Hirsch. Efficacy of Percutaneous Adhesiolysis in Managing Low Back and Lower Extremity Pain: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Pain Therapy, 2023, 12(4), p.903-937.
Jae Ni Jang, Soyoon Park, Ji-Hoon Park, Yumin Song, Sooil Choi, Young Uk Kim, Sukhee Park. Comparison of efficacy according to voltage of pulsed radiofrequency treatment to lumbar dorsal root ganglion in patient with lumbar radiculopathy: Pilot study. Medicine (Baltimore), 2023, 102(17), p.e33617.
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