椎間板ヘルニアの手術は、痛みの改善が期待される一方で、後遺症が残るのではないかという不安も伴います。手術後は、しびれや傷の痛みなどの後遺症や、椎間板ヘルニアが再発する可能性もあります。手術後の経過は人それぞれで、日常生活への復帰は数週間〜数か月、あるいはそれ以上かかる場合もあります。
この記事では、椎間板ヘルニア手術の後遺症や原因、手術の種類、術後の適切な治療法やセルフケアについて解説します。手術という大きな決断をするために正しい情報を得て、不安を解消しましょう。
椎間板ヘルニアは「どのくらいで治るのか?」「無理のない過ごし方は?」といった自然治癒に関する疑問を持つ方も多いはずです。以下の記事では、椎間板ヘルニアの自然治癒にかかる期間や回復の流れ、セルフケアを行う際の注意点について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの自然治癒期間は?回復過程とセルフケアの注意点を解説
目次
椎間板ヘルニアの手術後に後遺症が出る割合
椎間板ヘルニアの手術における後遺症の発生頻度は、手術方法や患者さんの年齢、体質、症状の進行度などによって大きく異なります。後遺症の発生頻度を一概に数値で示すことは難しいとされています。後遺症の定義や、どの程度の症状を後遺症とみなすかによって、統計の結果にばらつきが生じるからです。
椎間板ヘルニアの手術では、症例により異なりますが、70~80%程度の改善が期待できるとされています。しかし、すべてのケースで完全に症状が消えるとは限りません。ヘルニアの大きさや位置、神経への圧迫の程度、術後の生活習慣やリハビリテーションの取り組みによっても、回復の程度に差が生じます。
しびれや筋力低下が続く場合もあるため、手術を検討する際は、効果だけではなくリスクについても正しく理解することが重要です。
以下の記事では、椎間板ヘルニアに配慮した筋トレメニューや、実践時の注意点について詳しく紹介しています。無理のない範囲で筋トレも取り入れたい方は、ぜひご参考ください。
>>椎間板ヘルニアに効果が期待できる筋トレメニューと実践時の注意点
椎間板ヘルニア手術後のしびれの原因
椎間板ヘルニア手術後のしびれの原因について、以下の2つを解説します。
- 神経根の圧迫
- 炎症
神経根の圧迫
椎間板ヘルニアの手術では、神経を圧迫している椎間板の一部を除去しますが、長い間神経を圧迫していた影響はすぐには消えません。神経は、長時間圧迫されると、むくんだり、血流が悪くなったりします。長時間の神経圧迫により、神経の情報伝達がスムーズに行われず、しびれや痛みを感じることがあります。
炎症
手術によって神経周辺の組織に炎症が起きます。炎症は、体を守るための反応ですが、炎症によって生じる物質が神経を刺激し、しびれや痛みを引き起こすことがあります。炎症反応は、通常であれば数日〜数週間で治まりますが、炎症が長引いたり慢性化したりすると、しびれも長引いてしまう可能性があります。
日常生活では、患部を安静にし、負担をかけすぎないことが大切です。炎症が長引く場合は、自己判断で対処せず、必ず医師に相談しましょう。
椎間板ヘルニアの手術の主な種類
椎間板ヘルニアの手術は、患者さんの病状やヘルニアの状態によって最適な手術方法は異なります。代表的な手術方法について、以下の3種類の術式を解説します。
- PED(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)
- PLIF(後方腰椎椎体間固定術)
- TLIF(経椎間孔腰椎椎体間固定術)
PED(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)
PED(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)は、皮膚に1cmほどの小さな穴を開け、内視鏡という細い管を挿入して、椎間板の一部を取り除く手術です。内視鏡の先端には、小さなカメラとライトが付いており、医師はカメラの映像を見ながら、特殊な器具を使って椎間板を摘出します。
PEDの最大のメリットは、身体への負担が少ないことです。切開が小さいため、傷口も小さく、術後の痛みも比較的軽度で済みます。入院期間も短く、早期の社会復帰が期待できます。しかし、ヘルニアが大きい場合や神経への圧迫が強い場合、神経の通り道が狭い場合は、十分な効果が得られない可能性があります。
PLIF(後方腰椎椎体間固定術)
PLIF(後方腰椎椎体間固定術)は、背中側から椎間板にアプローチする手術です。ヘルニアを取り除いた後、空いたスペースに人工骨やケージと呼ばれる金属製の器具を挿入し、背骨を固定します。PLIFは、比較的大きなヘルニアや、背骨が不安定な場合に有効な手術方法です。
PLIFは、PEDに比べて切開が大きいため、術後の痛みや回復期間はやや長くなります。入院期間もPEDより長くなり、社会復帰までに時間を要することもあります。筋肉の損傷や感染症などの手術に伴うリスクにも注意が必要です。
高齢の方や喫煙習慣のある方、BMI25以上の肥満の方は、手術後にヘルニアの再発リスクが高いという研究報告もあります。
TLIF(経椎間孔腰椎椎体間固定術)
TLIF(経椎間孔腰椎椎体間固定術)は、PLIFと同様に背中側から椎間板にアプローチする手術ですが、筋肉をなるべく切らずに、神経の出口を広げるようにして手術を行います。PLIFに比べて筋肉への負担が少ないというメリットがあります。TLIFも、比較的大きなヘルニアや、背骨が不安定な場合に適応されます。
TLIFは、PLIFに比べて傷口が小さく、身体への負担も少ないですが、PEDに比べると傷口は大きくなります。入院期間もPEDよりは長くなるため、社会復帰にも時間がかかります。PLIFと同様に、手術に伴う感染症などのリスクも考慮する必要があります。
椎間板ヘルニア手術後の後遺症と経過
手術後の経過や症状、合併症について以下の内容を解説します。
- 手術直後の経過と入院期間
- 傷の痛みやしびれの症状と経過
- 起こりうる合併症:神経損傷、感染など
手術直後の経過と入院期間
手術直後は、麻酔の影響で痛みを感じにくい状態です。しかし、麻酔が切れてくると傷の痛みや、手術前よりも強いしびれを感じることもあります。手術によって生じる組織の炎症や腫れ、神経の反応などが原因で、症状は一時的である場合が多いです。
入院期間は、手術の方法や患者さんの状態、合併症の有無などによって異なりますが、一般的には数日〜1週間程度です。入院中は、痛みや腫れを抑えるための薬物療法やリハビリテーションが開始されます。医師や看護師、理学療法士の指示に従い、無理なく過ごしましょう。
傷の痛みやしびれの症状と経過
手術後の傷の痛みは、時間の経過とともに徐々に軽減していきます。しかし、神経の圧迫が長期間にわたっていた場合や、手術による神経への刺激、炎症などが原因で、数週間〜数か月間、痛みが続く場合もあります。しびれは、手術直後〜数週間は症状が続いたり、一時的に悪化したりすることがあります。
神経の回復には時間がかかるため、焦らずに経過を見守りましょう。時間の経過とともに症状が改善することが多いですが、長引く場合は医師に相談することが大切です。
起こりうる合併症:神経損傷、感染など
椎間板ヘルニアの手術の主な合併症は、神経損傷や感染、出血、血栓症などです。合併症が起こる原因や症状については、以下の表にまとめています。
合併症 | 原因 | 主な症状 |
神経損傷 | 神経が傷つけられる | しびれ、麻痺、筋力低下 |
感染 | 手術部位に細菌が侵入する | 発熱、腫れ、痛み、傷の化膿 |
出血 | 手術中に血管が傷つけられる | 貧血、血圧低下 |
血栓症 | 血管に血のかたまりが詰まる | 肺塞栓症などの重篤な合併症 |
合併症は、早期に発見し適切な治療を行うことで、重症化を防ぐことができます。手術後、気になる症状があれば、すぐに医師に相談することが重要です。
椎間板ヘルニア手術後の治療法とセルフケア
手術後の治療法と自宅でできるセルフケアについて、以下の内容を解説します。
- 薬物療法:鎮痛剤、神経障害性疼痛治療薬
- 理学療法:ストレッチ、マッサージなど
- セルフケア:温罨法、冷罨法
薬物療法:鎮痛剤、神経障害性疼痛治療薬
手術後の痛みやしびれの緩和に使用される薬剤は、鎮痛剤と神経障害性疼痛治療薬です。鎮痛剤は、手術直後の痛みを抑えるために使用されます。痛みの強さや性質に合わせて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン、オピオイド系鎮痛薬などの鎮痛剤が使われます。
神経障害性疼痛治療薬は、神経の損傷や炎症によって生じる痛みやしびれに効果があります。プレガバリンやガバペンチン、デュロキセチン、アミトリプチリンなどが用いられます。神経の興奮を抑え、神経伝達物質のバランスを整えることで、痛みやしびれの緩和につながります。
薬の効果や副作用には個人差があります。副作用が気になったり、効果が不十分だと感じたりする場合は、自己判断で服薬を中断せず、医師や薬剤師に相談してください。
理学療法:ストレッチ、マッサージなど
理学療法は、身体機能の回復や痛みの軽減を目的とした治療法です。理学療法士が、患者さんの状態に合わせて個別のプログラムを作成し、指導を行います。椎間板ヘルニア手術後の理学療法は、大きく運動療法と物理療法に分けられます。運動療法の方法と効果については以下のとおりです。
- ストレッチ、筋力トレーニング、関節可動域訓練を行う
- 柔軟性、筋力、バランス能力の向上を目指す
- 手術で硬くなった筋肉や関節の動きを改善する
- 痛みやしびれの軽減につながる
物理療法の方法と効果については以下の表のとおりです。
種類 | 方法 | 効果 |
温熱療法(温罨法) | 患部を温める | 血行を促進し、筋肉の緊張をほぐす |
寒冷療法(冷罨法) | 患部を冷やす | 炎症や腫れを抑え、痛みを軽減する |
電気刺激療法 | 微弱な電流を患部に流す | 痛みの緩和や筋肉の収縮を促進する |
理学療法は、医師の指示のもと適切な時期に開始し、継続することが重要です。手術後の回復を早めるだけでなく、再発予防にも効果的です。
運動療法の一環として、ウォーキングを取り入れる方も増えていますが、正しい方法で行うことが大切です。以下の記事では、椎間板ヘルニアの方がウォーキングをする際の注意点や、その他のセルフケアについて詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアはウォーキングしたほうがいい?注意点やその他のセルフケア
セルフケア:温罨法、冷罨法
自宅で行えるセルフケアには、温罨法(おんあんぽう)と冷罨法(れいあんぽう)があります。自宅でできるセルフケアの方法と効果的な場面については、以下の表のとおりです。
自宅でできるセルフケア | 使用するもの | 効果的な場面 |
温罨法 | 蒸しタオル、カイロ、温湿布 | 長時間の神経圧迫で血流が悪くなっている場合 |
冷罨法 | 保冷剤、氷水 | 手術直後で炎症が強い時期 |
温罨法と冷罨法は、症状や時期によって使い分けます。どちらの方法が適しているか、医師や理学療法士に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
まとめ
手術はあくまで治療の第一歩であり、術後の適切なケアが重要です。神経の回復には個人差があり、焦らず医師の指示に従いながら、リハビリテーションやセルフケアに取り組みましょう。日常生活では、正しい姿勢や適度な運動、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
痛みやしびれが長引いたり、新たな症状が現れたりする場合は、自己判断せず、速やかに医師に相談しましょう。合併症の可能性もありますので、少しでも不安なことがあれば、気軽に医師に相談してください。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状を悪化させないために、日常生活で注意すべき動作や習慣について詳しく解説しています。知らずにやってしまいがちなNG行動をチェックして、悪化を防ぎましょう。
>>椎間板ヘルニアでやってはいけないこと!悪化を防ぐ注意点
参考文献
Mingjiang Luo, Zhongze Wang, Beijun Zhou, Gaigai Yang, Yuxin Shi, Jiang Chen, Siliang Tang, Jingshan Huang, Zhihong Xiao. Risk factors for lumbar disc herniation recurrence after percutaneous endoscopic lumbar discectomy: a meta-analysis of 58 cohort studies. Neurosurg Rev, 2023, 46, 1, p.159
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