腰痛や脚の違和感などは、椎間板ヘルニアの初期症状の可能性があります。椎間板ヘルニアとは、背骨の椎間板が変形して飛び出し、神経を圧迫することで起こる病気です。椎間板ヘルニアの初期症状は、見逃しがちなので注意が必要です。初期の適切な対処が、手術の必要性を減らせる可能性があります。
この記事では、見逃しやすい椎間板ヘルニアの初期症状5つのサインや原因、重症化サインを解説します。早期発見・早期治療で、痛みや不安を軽減する第一歩を踏み出しましょう。
目次
椎間板ヘルニアの初期症状5つのサイン
椎間板ヘルニアの初期症状について、以下の項目を解説します。
- 腰の痛み
- 下肢の痛みやしびれ(片側性が多い)
- 脚の筋力低下(つまずきやすくなることも)
- 脚の感覚異常(ジンジンする、感覚が鈍い)
- 軽度の動作制限(座る、立つと痛む)
腰の痛み
椎間板ヘルニアの初期症状で最も多いのが腰の痛みです。「ただの腰痛かな?」と安易に考えて放置してしまうと、症状が悪化してしまう可能性があります。椎間板ヘルニアによる腰痛の、具体的な特徴は以下のとおりです。
- くしゃみや咳で響く
- 同じ姿勢で悪化する
- 朝起きたときに痛む
- 痛みの波がある
くしゃみや咳をした瞬間に腰に響くような痛みがある場合は、椎間板ヘルニアの可能性があります。腹圧がかかることで椎間板への負担が増し、神経を刺激するためです。デスクワークなどで長時間座っていると腰痛が悪化し、立ったり歩いたりすると楽になる場合、椎間板ヘルニアが原因の可能性があります。
座っている姿勢は椎間板への負担が大きいため、長時間同じ姿勢を続けることで症状が悪化しやすいです。就寝中に筋肉の緊張が緩み、椎間板内の水分量が増加すると、朝起きたときに腰が痛むことがあります。常に同じように痛いというよりは、痛みが強くなったり、弱くなったりを繰り返すことが多いです。痛みが軽いからといって放置せず、医療機関を受診しましょう。
下肢の痛みやしびれ(片側性が多い)
椎間板ヘルニアは、お尻や太もも、ふくらはぎ、足先などの下肢にも痛みやしびれを引き起こすことがあります。ヘルニアによって神経が圧迫されることで、神経が支配する領域に痛みやしびれが生じます。左右どちらか片側の脚に症状が現れることが多いです。
坐骨神経が圧迫されると、お尻から太もも、ふくらはぎにかけて、電気が走るような痛みやしびれを感じることがあります。針で刺されたような痛みや、焼けるような痛みを感じる方もいます。太ももの裏側が突っ張る感じがして、前かがみになるのがつらいといった症状が現れることもあります。坐骨神経が伸びることで痛みやしびれが増強しやすくなるためです。
左右の脚で触られた感覚が違ったり、片方の脚だけ感覚が鈍くなったりすることがあります。神経の圧迫によって感覚が伝わりにくくなっているためです。歩いていると脚の痛みやしびれが強くなり、休むと楽になる症状は「間欠跛行(かんけつはこう)」と呼ばれ、椎間板ヘルニアの特徴的な症状の一つです。
脚の筋力低下(つまずきやすくなることも)
椎間板ヘルニアが進行すると、脚の筋力が低下することがあります。筋力が低下すると、以下の問題が起こる可能性があります。
- 力が入らない:脚に力が入りにくくなり、立ち上がるつらさや階段の昇り降りの難しさを感じることがある
- つまずきやすい:足が上がりにくくなり、普段はつまずくことのないような小さな段差でも、つまずいてしまうことがある
- 細かい動作が難しい:足の指を動かすのが難しくなり、靴下を履くのが大変になることもある
脚の感覚異常(ジンジンする、感覚が鈍い)
脚の感覚がいつもと違うと感じる場合は、椎間板ヘルニアのサインの可能性があります。神経の圧迫によって、さまざまな感覚異常が現れることがあります。以下の感覚異常がある場合は注意が必要です。
- ジンジンする
- 感覚が鈍い
- 感覚がない
重症化すると、脚の感覚がなくなることもあります。
軽度の動作制限(座る・立つと痛む)
椎間板ヘルニアの初期には、特定の動作で痛みを感じることがあります。座ったり立ったりするときの痛みや、寝返りすることが痛いと感じることもあります。
初期症状は、必ずしも椎間板ヘルニアだけに見られるものではありません。似たような症状が出る病気は他にもあるため、自己判断せずに医療機関を受診して、適切な診断を受けることが大切です。
以下の記事では、歩行困難を伴うような激しい痛みに対する緊急時の対処法や、受診のタイミングなどを詳しく解説しています。症状が急変したときの備えとしても、ぜひ一度ご確認ください。
>>椎間板ヘルニアで激痛が出て歩けないときの緊急対処法
椎間板ヘルニアになりやすい主な原因
椎間板ヘルニアになりやすい主な原因は以下のとおりです。
- 長時間のデスクワーク
- 猫背などの悪い姿勢
- 加齢による椎間板の老化
- 重い物を持ち上げる習慣
長時間のデスクワーク
長時間座りっぱなしのデスクワークは、腰に大きな負担をかけ、椎間板ヘルニアのリスクを高める原因となる可能性があります。前かがみの姿勢や、椅子に浅く腰掛ける姿勢は、椎間板への圧力を高め、ヘルニアのリスクを高めてしまう場合があります。デスクワークで椎間板ヘルニアを予防するためには、以下のポイントを意識することが大切です。
- 軽いストレッチを行う(1時間に1回程度)
- 椅子に深く腰掛ける
- デスクと椅子の高さの調整
- 腰を支えるクッションの使用
猫背などの悪い姿勢
猫背などの悪い姿勢も、椎間板ヘルニアのリスクを高める原因の1つです。猫背になると、頭が前に出て、背中が丸まり、腰椎に負担がかかります。特定の椎間板に過剰な負担がかかるため、ヘルニアを発症しやすくなります。正しい姿勢を保つために、以下の項目を意識しましょう。
- 立っているとき:耳や肩、腰、膝、くるぶしが、一直線になるように心がける
- 座っているとき:背筋を伸ばし、骨盤を立てるように意識する
- 歩くとき:視線をまっすぐに向け、腕を大きく振ることで、自然と良い姿勢を維持できる
以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状をレベル別に詳しく解説し、それぞれの段階における適切な対処法について紹介しています。自分の症状がどの段階にあるのか確認したい方は、ぜひ参考にしてください。
>>腰椎椎間板ヘルニア症状のレベル別特徴と対処法
加齢による椎間板の老化
加齢は、椎間板ヘルニアのリスク要因の一つです。加齢とともに椎間板は水分を失い、弾力性が低下していきます。椎間板の弾力性が低下すると、衝撃を吸収する能力が弱まり、ヘルニアになりやすくなります。
若い頃は、椎間板に含まれる水分が豊富で、クッションの役割を果たし、外部からの衝撃を吸収しやすいです。しかし、年齢を重ねるにつれて、椎間板の水分が徐々に失われ、弾力性や柔軟性が低下し、ひび割れなどが生じやすくなります。
適度な運動やバランスの良い食事を心がけることで、椎間板の老化を遅らせる可能性があります。ウォーキングや水泳などの適度な運動は、腰周りの筋肉を強化し、椎間板への負担を軽減する効果が期待できます。
重い物を持ち上げる習慣
重い物を持ち上げる作業も、腰に大きな負担をかけるため、椎間板ヘルニアのリスク要因の一つです。前かがみで持ち上げたり、急に持ち上げたりすると、腰に大きな衝撃が加わり、ヘルニアを引き起こしやすくなります。
正しい持ち上げ方を知らないまま重い物を持ち上げ続けると、椎間板にかかる負担が大きくなり、変形や損傷のリスクが高まります。重い物を持ち上げるときは、以下の工夫が大切です。
- 腰を落とす
- 背筋を伸ばす
- 重い物に近い位置で持つ
- 足の力を使って持ち上げる
- 複数人で持ち上げる
見逃してはいけない重症サイン
椎間板ヘルニアの見逃してはいけない重症サインについて、以下の内容を解説します。当てはまるものがあれば、医療機関の受診を検討しましょう。
- 足の感覚がなくなる、動かしづらい
- 排尿、排便障害が出る
- 激しい痛みが続く
足の感覚がなくなる・動かしづらい
椎間板ヘルニアによって神経が圧迫されると、情報伝達がうまくいかなくなり、足の感覚が鈍くなったり、なくなったりすることがあります。以下の症状が現れたら、医療機関を受診しましょう。
- つま先に力が入らなくなる
- つまずきやすくなる
- スリッパが脱げていることに気づかない
- 熱いお風呂に入っても熱さを感じない
足が動かしづらくなることもあります。神経が圧迫されることで、筋肉に適切な信号が送られなくなるためです。初期には、足が重だるく感じる、スムーズに動かせないといった症状が現れ、進行すると、全く動かせなくなってしまうこともあります。
排尿・排便障害が出る
排尿や排便に障害が出た場合は、医療処置が必要な可能性があります。「馬尾症候群(ばびしょうこうぐん)」という状態になっている可能性があるため、早めの医療機関の受診をおすすめします。
馬尾症候群とは、脊髄神経の末端部分が圧迫されることで、膀胱や直腸の機能が麻痺してしまう病気です。脊髄神経は、脳からの指令を全身に伝える役割を担っており、末端部分である馬尾神経は、排尿・排便機能をコントロールしています。具体的な症状は、以下のとおりです。
- 尿意があっても尿が出ない
- 尿が漏れてしまう
- 便意があっても便が出ない
- 便が漏れてしまう
- 会陰部(肛門と性器の間)にしびれや痛みがある
神経の圧迫が強くなっているサインであり、早急な医療処置が必要となる場合があります。少しでも疑わしい症状があれば、ためらわずに救急車を呼ぶか、近くの病院に連絡してください。早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。
激しい痛みが続く
椎間板ヘルニアによる痛みは、安静にしていると軽減する傾向があります。痛みが激しく、夜間や朝方に悪化し、睡眠に支障をきたす場合は、重症化している可能性があります。
痛みで目が覚めてしまう、痛み止めを飲んでも効果がないといった場合は、炎症がひどくなっているか、神経の圧迫が強まっている可能性があります。我慢せずに、医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
椎間板ヘルニアの初期症状セルフチェック
椎間板ヘルニアの初期症状セルフチェックについて、以下の内容を解説します。「もしかして、椎間板ヘルニア?」と不安に思ったら、以下のセルフチェックで自分の状態を把握し、医療機関を受診する目安にしましょう。
- 痛みやしびれの程度をチェック
- 症状の持続期間をチェック
- 日常生活への影響をチェック
- 医療機関での診断(レントゲン、MRI)
痛みやしびれの程度をチェック
痛みやしびれの程度をチェックしましょう。以下の分類はあくまで目安であり、自己診断に用いるものではなく、医療機関を受診する際の参考としてください。
症状の程度 | 具体的な症状の例 | 日常生活への影響 |
軽い痛み・しびれ | ・長時間立った後の腰の重だるさ ・座っているときの足の指先のチクチク感 | ほとんど支障なし |
中等度の痛み・しびれ | ・長時間同じ姿勢がつらい ・椅子から立ち上がる際の痛み ・歩行時の足のしびれ | 多少の支障あり |
強い痛み・しびれ | ・歩行困難 ・寝返りが打てないほどの痛み ・足のしびれや麻痺で力が入らない | 大きな支障あり |
痛みやしびれは、腰だけでなく、お尻や太もも、ふくらはぎ、足先などにも現れることがあります。左右どちらかの、片側の足だけに症状が現れやすいのも特徴です。咳やくしゃみをすると痛みが強くなる場合も、椎間板ヘルニアを疑うサインの一つです。
症状の持続期間をチェック
症状がどれくらい続いているのかを確認することも重要です。痛みが数日以内で治まる場合は、一時的な筋肉の炎症や、疲労による可能性があります。「寝違え」や、重い荷物を持った後に一時的に腰が痛くなる、といった状況も考えられます。安静にして様子を見ましょう。温めたり、ストレッチをしたりするのも、痛みの改善が期待できます。
痛みが1週間以上続く場合は、椎間板ヘルニアの可能性が高いため、医療機関の受診を検討しましょう。自然に治癒する可能性もありますが、放置すると症状が悪化することもあります。専門医の診察を受け、適切な診断と治療を受けることが大切です
痛みが数週間以上続く場合は、放置せずに、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。長引く痛みは、日常生活の質を低下させるだけでなく、精神的な負担にもつながります。
以下の記事では、椎間板ヘルニアによる痛みを和らげるための具体的な対策や、即効性が期待できる方法を詳しく紹介しています。症状が続いて不安な方は、ぜひ参考にしてみてください。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法と即効性が期待できる対策
日常生活への影響をチェック
椎間板ヘルニアの初期症状は、日常生活にもさまざまな影響を及ぼします。以下は、日常生活で影響を受けやすい動作です。
- 座る:長時間座っているのがつらい、椅子から立ち上がるときに痛みがある
- 立つ:立っていると腰に痛みを感じる、長時間立っていられない
- 歩く:長時間歩けない、歩くと痛みやしびれが増す、足を引きずる
- 寝返り:寝返りを打つと痛みで目が覚める、寝返りがスムーズにできない
- 靴下を履く:靴下を履くのが難しい、バランスを崩しやすい
- 階段の昇降:階段を上り下りするのがつらい、手すりが必要になる
- 前かがみ:前かがみになると腰やお尻、脚に痛みやしびれが出る
上記の症状によって、日常生活に支障が出ている場合は、医療機関を受診しましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの早期回復を目指すために実践できる生活習慣やセルフケアの工夫を詳しく紹介しています。毎日の習慣を見直すことが、改善への第一歩です。少しでも早く回復を目指したい方は、チェックしてみてください。
>>椎間板ヘルニアを早く治す方法!回復を促進する生活習慣
医療機関での診断(レントゲン・MRI)
最終的な診断は医療機関で行います。問診や診察に加え、レントゲンやMRI検査で椎間板の状態を詳しく調べます。
レントゲン検査は骨の変形や異常、脊椎の不安定性などを確認します。他の疾患の可能性を除外するためにも重要な検査です。MRI検査は、椎間板の状態を詳しく確認します。ヘルニアの大きさや位置、神経への圧迫の程度などを診断します。レントゲンではわからない、椎間板の変性や突出、神経根の圧迫状態などを詳細に把握できます。
検査結果をもとに、医師が適切な治療法を提案します。症状が気になる場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。椎間板ヘルニアの治療法は保存療法から手術までさまざまあり、症状の程度や患者さんの生活環境などによって個別に検討されます。
以下の記事では、保存療法と手術療法の違いや、それぞれのメリット・デメリット、どのような基準で選ぶべきかをわかりやすく解説しています。自分に合った治療法を見つけるための参考にしてください。
>>椎間板ヘルニアの治療法を解説!手術と保存療法の選び方
まとめ
腰痛や脚の痛みやしびれ、違和感など、椎間板ヘルニアの初期症状は、日常生活でよくある症状と似ているため、見逃してしまうことも少なくありません。初期症状を見逃すと、症状が悪化し、日常生活に支障をきたす可能性があるため注意が必要です。
「もしかして椎間板ヘルニア?」と少しでも不安を感じたら、本記事のセルフチェックを試してみてください。痛みが続く場合は、自己判断せずに、医療機関を受診しましょう。早期発見・早期治療で、痛みや不安から解放され、快適な生活を取り戻しましょう。
以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状を悪化させないために、日常生活で注意すべき動作や習慣について詳しく解説しています。知らずにやってしまいがちなNG行動をチェックして、悪化を防ぎましょう。
>>椎間板ヘルニアでやってはいけないこと!悪化を防ぐ注意点
参考文献
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