立ち上がりや歩行時に足の付け根に激痛が走ると、日常生活に支障をきたす恐れがあります。足の付け根の痛みは、腰椎椎間板ヘルニアが原因かもしれません。腰椎椎間板ヘルニアは、背骨のクッションの役割を果たす椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす病気です。
この記事では、腰椎椎間板ヘルニアについて、以下の内容を解説します。
- 腰椎椎間板ヘルニアによる足の付け根の痛みの原因3選
- 腰椎椎間板ヘルニアの治療法4選
- 足の付け根の痛みを和らげるためのセルフケア
記事を読むことで、足の付け根の痛みが腰椎椎間板ヘルニアによるものかを見極め、適切な対処につなげられます。記事の内容を参考にし、必要に応じて医療機関を受診してください。
あわせて、症状の重さに応じた対応を知っておくことも大切です。以下の記事では、腰椎椎間板ヘルニアの症状をレベル別に整理し、それぞれに適した対処法について詳しく解説しています。
>>腰椎椎間板ヘルニア症状のレベル別特徴と対処法
目次
腰椎椎間板ヘルニアによる足の付け根の痛みの原因3選
足の付け根の痛みが腰椎椎間板ヘルニアによるものである場合、痛みやしびれが慢性的に続くことがあります。原因を正しく理解し、適切に対処することが重要です。腰椎椎間板ヘルニアによる足の付け根の痛みの原因について、以下の内容を解説します。
- ヘルニアが太ももの神経を圧迫する
- 足の付け根を通る閉鎖神経が引っぱられて炎症を起こす
- ヘルニア周囲の炎症が飛び火して関連痛が起こる
ヘルニアが太ももの神経を圧迫する
腰椎椎間板ヘルニアにより飛び出した椎間板の一部が、太ももを通る神経を圧迫することで、足の付け根に痛みを引き起こすことがあります。第4腰椎と第5腰椎の間や、第5腰椎と仙骨の間にヘルニアが発生するケースが多く見られます。
腰椎椎間板ヘルニアは、お尻から足先まで伸びる太い神経(坐骨神経)を圧迫しやすいです。お尻や太ももの後ろ側から足先にかけて「坐骨神経痛」と呼ばれる痛みやしびれが生じることがあります。
ヘルニアが、第1腰椎と第2腰椎の間や、第2腰椎と第3腰椎の間にある場合、太ももの前側の神経(大腿神経)や内側の神経(閉鎖神経)を圧迫しやすいです。神経根性疼痛(しんけいこんせいとうつう)の場合、前かがみになったり、咳やくしゃみをしたりすると、痛みが悪化する可能性があるため注意が必要です。
足の付け根を通る閉鎖神経が引っぱられて炎症を起こす
第1腰椎と第2腰椎の間や、第2腰椎と第3腰椎の間にヘルニアが発生した場合、足の付け根の閉鎖神経が圧迫され、足の付け根に痛みやしびれが生じやすいです。太ももの内側の感覚が鈍くなったり、太ももを内側に動かす筋肉が弱くなったりすることもあります。
閉鎖神経が関係する足の付け根の痛みは、鼠径部(足の付け根の折れ曲がるところ)に広がる鋭い痛みやしびれとして感じられることが多いです。太ももを持ち上げたり、つま先立ちをしたりするときに力が入りにくくなる場合もあります。腰を反らすと椎間が開き、神経への圧迫が軽減されるため、痛みが和らぐ可能性があります。
ヘルニア周囲の炎症が飛び火して関連痛が起こる
腰椎椎間板ヘルニアで周辺の組織に炎症が起きると、炎症が周辺の組織を刺激して、痛みを引き起こす場合があります。一般的に「関連痛」として知られています。ヘルニアの周囲で炎症が起こると、神経を介して離れた部位にも痛みを引き起こすことがあります。
炎症から放出される化学物質が神経を刺激し、痛みの信号を脳へ伝えることが関連痛のメカニズムの一つとして考えられています。炎症が強い急性期には、患部に熱感や腫れを伴うこともあります。
腰椎椎間板ヘルニアの治療法4選
腰椎椎間板ヘルニアによる足の付け根の痛みには、大きく分けて以下の4つの治療法があります。
- 薬物療法
- 理学療法
- 神経ブロック注射
- 手術
ヘルニアの程度や、神経圧迫の程度、患者さんの症状、生活スタイルで最適な治療法が異なります。医師と相談し、自身に合った治療法を選択することが大切です。
薬物療法
薬物療法は、痛みや炎症を抑え、症状の緩和を目指す治療法です。足の付け根が痛む場合は、以下の表の薬を選択することが多いです。
薬の種類 | 主な目的 | 効果 | 備考 |
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | 炎症と痛みの軽減 | 炎症を引き起こす物質の生成を抑え、痛みや腫れの軽減が期待できる | 炎症が強い急性期に特に有効な場合が多い |
神経障害性疼痛治療薬 | 神経損傷による痛みやしびれの軽減 | 神経の興奮を抑え、痛みの緩和が期待できる | 足の付け根のしびれが強い場合に効果が期待できる |
筋弛緩薬 | 筋肉の緊張緩和 | 筋肉の過剰な収縮を抑え、痛みの軽減が期待できる | 筋緊張が強い場合に使用することが多い |
薬には、副作用や注意点があるため、医師からの説明を受け、指示通りに服用することが重要です。自己判断で服用を中断したり、量を増やしたりすることは避けてください。
理学療法
理学療法は、運動やストレッチなどで症状を改善していく治療法です。腰や骨盤周りの筋肉を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることで、腰への負担を軽減し、痛みを和らげます。理学療法には、以下の表の方法があります。
治療法 | 主な目的 | 内容 | 効果 |
牽引療法 | 神経への圧迫を軽減 | 機械を使って腰椎をやさしく引っ張り、腰椎を広げる | ヘルニアの突出が軽減され、神経への圧迫が和らぎ、痛みが軽減される可能性がある |
運動療法 | 腰周りの筋肉強化や再発予防、姿勢改善 | ストレッチや筋力トレーニングなどを、理学療法士の指導のもとで無理なく安全に行う | ・体幹強化により腰椎への負担を軽減し、姿勢を安定させる・ピラティスなどのエクササイズも有効 |
温熱療法 | 血行促進や筋肉の緊張緩和 | 温罨法やホットパックなどで患部を温める | ・血流が改善し、筋肉がリラックスする ・痛みの軽減や緊張の緩和が期待できる |
自宅でできるストレッチを取り入れることで、通院が難しい方でも痛みの軽減が期待できます。以下の記事では、椎間板ヘルニアの症状緩和に役立つストレッチを具体的に紹介しています。
>>椎間板ヘルニアの改善が期待できるストレッチ!自宅でできる痛み軽減法
神経ブロック注射
神経ブロック注射は、痛みの原因になっている神経に直接薬剤を注射し、痛みをブロックする治療法です。薬物療法や理学療法で十分な効果が得られない場合や、痛みが強い場合に検討されます。注射する薬剤は、局所麻酔薬やステロイド薬などがあり、炎症を抑えたり、神経の興奮を抑えたりする効果があります。
神経ブロック注射は、即効性はありますが、効果が一時的なため、根本的な治療にはなりません。
手術
手術は、薬物療法や理学療法などの保存療法を数か月続けても十分な改善が見られない場合に検討されます。日常生活に支障が出るほどの強い痛みやしびれ、筋力低下、排尿・排便障害がある場合、手術が適応となる場合があります。
手術には、内視鏡を用いて患部を切除する内視鏡下手術(MED/PELD)や、従来の方法で行う開窓術などがあります。内視鏡下手術は、傷口が小さく、体への負担が少ないため、近年では主流となっています。入院期間は3~5日程度と比較的短期間で済む場合が多いです。
手術療法は最終手段であり、必ずしもすべての人に適しているわけではありません。医師から手術の方法やリスク、術後の経過などの説明を受け、メリットとデメリットを十分に理解したうえで、判断することが重要です。
手術を検討する際に気になるのが費用や保険適用の可否です。以下の記事では、椎間板ヘルニア手術の費用相場や保険が適用される条件について、分かりやすく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの手術の費用相場と保険適用の条件を詳しく解説
足の付け根の痛みを和らげるためのセルフケア
足の付け根の痛みを和らげるためのセルフケアとして、以下の内容を解説します。
- アイシングや温熱療法
- 正しい姿勢
- 体重管理
- 禁煙
- 定期的な受診
セルフケアは、医療機関での治療と並行して行うことで、より効果を発揮します。痛みが強い場合や症状が改善しない場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診しましょう。
アイシングや温熱療法
アイシングと温熱療法は、痛みの状態や時期で使い分けることで効果が期待できます。以下の表を参考にして、使い分けてください。
方法 | 痛みの状態や時期 | 手順 | 備考 |
アイシング | ・急性期の強い痛みがある・痛みが発生して48時間以内 | 1.保冷剤や氷嚢をタオルに包み、痛む部分に15〜20分程度当てる 2.1日に数回繰り返す。 | 凍傷を防ぐため、直接肌に当てないよう注意する |
温熱療法 | ・慢性的な痛みがある・痛みが発生して48時間以降 | 温熱パッドや蒸しタオルを患部に当て、20〜30分程度温める | ・お湯の温度は38〜40℃程度のぬるめにする・入浴やシャワーでも同様の効果が期待できる |
正しい姿勢
腰椎椎間板ヘルニアによる足の付け根の痛みを悪化させないためには、正しい姿勢を保つことが重要です。前かがみや中腰の姿勢は、腰椎への負担を増加させるため、なるべく避けましょう。椅子に座るときは、浅めに腰掛け、背もたれを利用してください。
深く座ると、腰椎が丸まり、椎間板への圧力が増加するため注意が必要です。立っているときは、お腹に軽く力を入れることで、正しい姿勢を維持しやすいです。就寝時は、以下のように姿勢に注意してください。
- 仰臥位(仰向け):膝の下にクッションを置く
- 側臥位(横向き):膝を軽く曲げて抱き枕などを抱える
- 俯臥位(うつ伏せ):椎間板への負担が大きくなるため避ける
最新の研究では、睡眠時の姿勢が腰痛の発症や悪化に影響を与える可能性があると報告されています。仰向けや、適切にサポートされた横向きの姿勢は、腰痛の軽減に効果的である可能性があります。
体重管理
体重が増加すると、腰椎への負担が増え、椎間板ヘルニアの症状を悪化させる可能性があります。適正体重を維持することで、腰への負担を軽減し、足の付け根の痛み緩和が期待できます。バランスの良い食事と適度な運動を心がけ、健康的な生活習慣を維持しましょう。
ウォーキングや水泳などの有酸素運動は、体重管理だけでなく、腰痛の予防にも効果的です。適度な運動は、腰周りの筋肉を強化し、腰椎の安定性を高める効果が期待できます。
禁煙
喫煙は、椎間板への血流を阻害し、椎間板の変性を促進する原因となる可能性があります。腰椎椎間板ヘルニアを予防し、症状を改善するために、禁煙をおすすめします。禁煙が難しい場合は、医師や禁煙外来に相談しましょう。
定期的な受診
腰椎椎間板ヘルニアは、放置すると症状が悪化したり、慢性化したりする可能性があります。足の付け根の痛みが続く場合は、整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。定期的に受診することで、病状の進行や再発の早期発見につながります。
まとめ
足の付け根の痛みの原因は、ヘルニアによる神経圧迫や閉鎖神経の炎症、関連痛などさまざまです。治療法は、薬物療法や理学療法、神経ブロック注射、手術などがあり、症状に応じて選択されます。自身に合った治療法を選択するために、医師との相談が大切です。
アイシングや温熱療法、正しい姿勢の維持、体重管理、禁煙などのセルフケアも、症状緩和に効果が期待できます。症状の進行や再発の早期発見のために、定期的に受診することも大切です。症状が続く場合は、早めに整形外科を受診しましょう。
治療を進めるうえで重要なのが、回復を促す生活習慣の見直しです。以下の記事では、椎間板ヘルニアを早く改善するための具体的な生活習慣や、自宅でできる実践的なポイントを紹介しています。
>>椎間板ヘルニアを早く治す方法!回復を促進する生活習慣
参考文献
Yashita Saini, Anushree Rai, Siddhartha Sen.Relationship Between Sleep Posture and Low Back Pain: A Systematic Review.Musculoskeletal Care,2025,23,2,p.e70114
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