腰痛持ちのランナーにとって、椎間板ヘルニアを恐れている方も多いのではないでしょうか。着地のたびに腰に響く衝撃は、悪化につながるのではと不安になるものです。椎間板ヘルニアでもランニングは可能ではありますが、いくつかの注意点を守ることが重要です。
この記事では、椎間板ヘルニアでもランニングを再開できるタイミングや、適切なフォーム、悪化を防ぐための注意点まで解説します。安全にランニングを楽しむための秘訣が満載です。椎間板ヘルニアとランニングの関係、そして賢く付き合っていく方法を確認していきましょう。
ランニングに不安がある方は、まずウォーキングから始めるのも一つの選択肢です。以下の記事では、椎間板ヘルニアの方向けにウォーキングを行う際の注意点や、他のセルフケア方法について詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアはウォーキングしたほうがいい?注意点やその他のセルフケア
目次
ランニングは「椎間板ヘルニアの痛みが落ち着いてから」が基本
椎間板ヘルニアの痛みがあるうちは、ランニングを控えましょう。 椎間板ヘルニアは、椎間板が神経を圧迫し、腰や足に痛みやしびれを引き起こす病気です。ランニングは着地の衝撃で腰に負担がかかるため、特に発症初期の炎症が強い時期に行うと、症状を悪化させる可能性があります。例えるなら、捻挫した足首を無理に動かすようなものです。
痛みが落ち着いてきたら、医師に相談し、許可を得てから慎重に再開することが大切です。適切な方法で行えば、ランニングは背中の筋肉を強化し、脊柱の衝撃耐性を高める効果も期待できますが、無理は禁物です。ご自身の体の状態を理解し、決して無理をしないようにしましょう。
なお、痛みが強い時期には運動よりも、まずは「痛みを和らげるケア」が重要です。以下の記事では、温めることで期待される効果や、椎間板ヘルニアの痛みに対する正しいケア方法を詳しく解説しています。
>>椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法!温めることで期待される効果と正しいケア方法
椎間板ヘルニアとランニングの関係
椎間板ヘルニアの方がランニングをする際は、細心の注意が必要です。 ランニングは全身運動として健康に良い反面、着地の衝撃が腰椎に伝わり、椎間板ヘルニアの症状を悪化させるリスクがあるためです。特に、ヘルニアの炎症が強い急性期(発症初期1~2週間)は、ランニングを控えましょう。
痛みが落ち着いてきたら、ウォーキングから始め、徐々にランニングへと移行するなど、段階的に運動強度を上げていくことが大切です。 痛みの程度を「信号機」のように判断し、無理のない範囲で運動量を調整しましょう。正しいランニングフォームを意識し、クッション性の高いシューズを選ぶことも、腰への負担軽減につながります。
ランニング再開のポイントと注意事項
ランニング再開のポイントと注意事項について、以下を解説します。
- 再開の判断基準
- 再開に適した時期
- 適切な頻度と距離(週2〜3回、短距離から)
- 靴とウェアの選び方(衝撃吸収性・通気性)
- ランニング中や後の痛みへの対応
安全にランニングを楽しむために、ぜひ参考にしてください。
再開の判断基準
ランニング再開の判断基準は「痛みの有無」と「筋力の回復」です。椎間板ヘルニアでは、炎症の程度によって痛みの強さが大きく変動します。炎症が強い急性期(発症から約1~2週間)には、安静にしていても強い痛みを感じる場合があります。急性期にランニングを行うと、さらに炎症が悪化し、痛みが激しくなる可能性があります。
炎症が治まって慢性期に入ると、日常生活に支障がない程度の軽い痛みになることが多いです。ランニング再開の目安は、痛みが日常生活に支障がない程度に軽減していることです。「どの程度の痛みなら再開していいのか」と迷う方もいるかもしれません。
具体的な目安として、安静時に痛みがない、または日常生活で軽い痛みを感じる程度であれば、再開を検討しても良いと言えます。しかし、ランニング中に痛みが増強する場合は、すぐに中止してください。
「筋力の回復」について、椎間板ヘルニアになると、腰周りの筋肉が弱くなりがちです。痛みをかばうために身体を動かしにくくなるためです。腰周りの筋力が低下すると、腰椎への負担が増加し、椎間板ヘルニアの症状を悪化させる可能性があります。ランニング再開の前にストレッチや体幹トレーニングを行い、腰周りの筋力強化を行いましょう。
再開に適した時期
ランニング再開に適した時期は、症状が安定した後です。具体的には、保存療法を開始してから数週間~数か月後、あるいは手術後、痛みやしびれが落ち着いてからが目安です。保存療法とは、手術以外の治療法のことで、薬物療法、理学療法、装具療法などがあります。
治療によって炎症が抑えられ、痛みが軽減すると、日常生活動作が可能です。急性期はランニングを避け、安静を優先し、慢性期に入ってからでもランニングを再開する際は、医師の診察を受けることが推奨されます。自己判断でランニングを再開すると、症状が悪化する可能性があるため、必ず医師の指示に従ってください。
椎間板ヘルニアは手術をせずに自然治癒するケースもあり、その回復には一定の期間と適切なセルフケアが必要です。以下の記事では、自然治癒の経過や注意点について詳しく解説していますので、再発予防や正しい判断の参考にしてください。
>>椎間板ヘルニアの自然治癒期間は?回復過程とセルフケアの注意点を解説
適切な頻度と距離(週2〜3回、短距離から)
ランニングを再開する際は、週2~3回程度、短い距離から始めましょう。最初は5分程度の軽いジョギングから始めて、徐々に時間や距離を伸ばしていくのがおすすめです。ランニングの頻度や距離は、個々の体力や症状の程度によって異なります。医師や理学療法士に相談し、適切な運動量を決定することが重要です。
毎日ランニングを行うと、腰椎への負担が大きくなり、症状が悪化する可能性があります。ランニングの距離についても、最初は短い距離から始め、徐々に距離を伸ばしていくことが重要です。最初は1km程度のランニングから始め、1週間ごとに1kmずつ距離を伸ばすなどです。無理に長い距離を走ると、腰椎への負担が増加し、症状を悪化させる可能性があります。
靴とウェアの選び方(衝撃吸収性・通気性)
椎間板ヘルニアでランニングをする際は、靴とウェア選びも重要です。ランニングシューズは、衝撃吸収性が高いものを選びましょう。クッション性の高いシューズは、着地時の衝撃を吸収し、腰椎への負担を軽減する効果があります。インソールを入れることで、さらに衝撃吸収性を高めることができます。
インソールは、足の形に合わせて作られた中敷きのことで、足への負担を軽減する効果があります。ウェアは、通気性が良く、汗を素早く吸収・発散してくれる素材を選びましょう。吸汗速乾素材のウェアは、快適なランニングをサポートしてくれます。体温調節機能を持つウェアもおすすめです。
ランニング中や後の痛みへの対応
ランニング中や後に痛みが出た場合は、すぐにランニングを中止し、患部をアイシングしましょう。アイシングは、炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。アイシングは、ビニール袋に氷と水を入れたもの、または市販の保冷剤を使用します。患部に直接当てないように、タオルなどを巻いて使用してください。
アイシング時間は、1回につき15~20分程度が目安です。痛みが強い場合や、なかなか治まらない場合は、自己判断せずに医師に相談しましょう。必要に応じて、痛み止めや消炎鎮痛剤を処方してもらうこともあります。
再発を防ぐ走り方と他の運動の選び方
再発を防ぐ走り方と他の運動の選び方について、以下の内容を解説します。
- 良いランニングフォームのコツ
- 避けたいフォーム
- ウォーキングや水中運動などの代替運動
- ストレッチや体幹トレーニングで症状緩和
適切な運動は、健康維持だけでなく、症状緩和にもつながりますので、ぜひ参考にしてください。
良いランニングフォームのコツ
ランニング中に腰への負担を軽減するためのフォームのポイントは以下の2つです。
- 背筋をまっすぐ伸ばす
- 柔らかい着地を心がける
猫背になったり、逆に腰を反りすぎたりすると、椎間板に余計な負担がかかります。背筋をまっすぐ伸ばし、体幹を意識することで、腰への負担を軽減し、より安全にランニングを楽しむことができます。
着地に関しては、足の裏全体で着地する、いわゆるベタ足は、足腰への衝撃が大きくなってしまいます。かかとから着地し、つま先へと体重移動をスムーズに行うことで、衝撃を吸収し、腰への負担を軽減できます。ポイントを意識することで、椎間板への負担を最小限に抑えながら、ランニングのメリットを享受できます。
避けたいフォーム
椎間板ヘルニアの方は、特に以下のランニングフォームを避けるべきです。
- 過度な前傾姿勢:腰椎の前弯(腰が反ること)を増強させる
- 反り腰:腰椎の前弯を強め、椎間板への圧力を高める
- つま先着地:足首や膝への負担だけでなく、影響が腰にも及び、負担を増大させる可能性がある
- 腕を振らない:体全体のバランスが不安定になり、ランニング動作が非効率的で腰への負担も増加する
避けたいフォームを続けることで、椎間板への負担を増大させ、症状を悪化させる可能性があります。
ウォーキングや水中運動などの代替運動
ランニングが難しい場合は、以下のような別の運動を検討しましょう。
- ウォーキング:ランニングに比べて腰への負担が少ない
- 水泳・水中ウォーキング:水中の浮力によって、関節への負担が軽減される
- サイクリング:下半身の筋肉を鍛えられつつも、腰への負担は比較的少ない
いずれの運動も、ランニングに比べて腰への負担が少ないため、椎間板ヘルニアの方にも安心して行えます。
ストレッチや体幹トレーニングで症状緩和
椎間板ヘルニアの症状緩和には、ストレッチと体幹トレーニングが有効です。ストレッチは、筋肉の柔軟性を高め、血行を促進することで、腰痛の緩和につながります。特に、ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)や股関節周りの筋肉の柔軟性を高めることで、腰への負担を軽減し、痛みを和らげることができます。
体幹トレーニングは、腰椎の安定性を高め、椎間板への負担を軽減する効果が期待できます。体幹を鍛えることで、姿勢が良くなり、腰への負担が軽減されます。プランクやブリッジなどのエクササイズがおすすめです。
慢性足関節不安定症の術後におけるスポーツ復帰に関する研究のように、身体の状態に合わせた適切な運動は、機能改善に大きく貢献します。年齢やBMIが高い場合は復帰が難しいケースもあるように、椎間板ヘルニアにおいても個々の状態に合わせた適切な運動を選択することが重要です。
なお、運動を行う際は、必ず医師や理学療法士に相談し、自身の状態に合った方法で行うようにしてください。
まとめ
椎間板ヘルニアでもランニングは可能ですが、痛みが出ている時は絶対に避けましょう。痛みが落ち着いてからも、医師に相談し、許可を得てから再開することが大切です。ランニングを再開する際は、ウォーキングから始め、徐々に距離や時間を伸ばしていくようにしましょう。
ランニング中は正しいフォームを維持し、痛みを感じたらすぐに中止してください。ランニング以外にも、水泳やサイクリング、ウォーキングなど、腰への負担が少ない運動も検討してみてください。ストレッチや体幹トレーニングも、症状緩和に期待ができます。
大切なのは、自分の身体と相談しながら、無理なく運動を楽しむことです。焦らず、ランニングを再開していきましょう。
近年では、保存療法や手術に加え、再生医療などの新たな治療法も登場し、椎間板ヘルニアの「治らない」というイメージが変わりつつあります。以下の記事では、最新の治療法や回復の可能性について詳しく解説していますので、今後の治療選択の参考にしてみてください。
>>椎間板ヘルニアは一生治らない?最新治療と回復の可能性
参考文献
Yanzhang Li, Tong Su, Yuelin Hu, Chen Jiao, Qinwei Guo, Yanfang Jiang, Dong Jiang.Return to Sport After Anatomic Lateral Ankle Stabilization Surgery for Chronic Ankle Instability: A Systematic Review and Meta-analysis.Am J Sports Med,2024,52,2,p.555-566
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